「令和でも語りたい昭和な男たち」#1 ~水上善雄内野手(ロッテ-広島-ダイエー)~
暑い、そして熱い夏が今年もやってきた。7月8日、高校野球神奈川県大会1回戦、橘学苑―上溝南戦を取材するため、大和スタジアムまで足を運んだ。 汗を拭きながらネット裏のスタンドを上がると、橘学苑・水上善雄総監督(66)の姿があった。
水上さんはロッテー広島―ダイエーで内野手として活躍。通算1546試合、1011安打、105本塁打、450打点、打率.244。ダイヤモンドグラブ賞(1980年=現ゴールデングラブ賞)、ベストナイン(1987年)を獲得している名遊撃手だった。 水上さんを一躍有名にしたのは「ロン毛」。ゲン担ぎで伸ばしていただけだったが、「髪を切れ」というロッテ球団に対し「髪切ったら打てるようになるんですか?」と水上さんは一歩も譲らない。広島へのトレードは「長髪が原因」とまことしやかに言われた。 午前10時、試合開始のサイレンが鳴る。「今年は珍しく打撃のチーム。打ち合いになればいいけど」 水上さんの望み通り、2回までは両チームが3点ずつを取り合う荒れ模様の展開。しかし3回以降は無得点が続く膠着状態となり、6回裏に2点を勝ち越された。 そして迎えた7回表2死一・二塁。打席には4番豊田君。 「ここで打つで。思い切り」それまでチームの弱点などを淡々と語っていた水上さんの口調が変わった。筆者は低学年の少年野球チームで一緒に指導をしていた時のことを思い出した。 ダイエーで引退後はコーチの就任要請を断り、「人の世話になると辞められなくなる。コネのないところで働きたかった」とここでも自分の考えを曲げなかった水上さん。 筆者が知り合ったのはこの頃、築地市場でまぐろを並べる仕事をしている時だった。 「野球を嫌いになって欲しくない。打つことが一番楽しいんだから」。明らかなボール球を振っても決して怒らない。「ナイススイング!打てると思ったボールなら思いっきり振っていいぞ」とベンチから声を飛ばした。 「ボールを振るな」というと子供によってはバットを振れなくなることがわかっているからだ。 豊田君の打球はいい当たりだったが、ショートの真正面。 「この子は体が大きいのに、入学したときは外野に飛ばすのがやっと。ピッチャーやってたって言うから投げさせてみたら105キロくらいしか出ない。それが…ね」 おそらく、水上さんと豊田君の間にはいろいろあったのだろう。ただ同点機をものにすることができず、結局、このまま試合終了となり、橘学苑は3年連続初戦敗退となった。 ソフトバンクで二軍監督、一軍守備走塁コーチを務めた後の2019年から同校野球部監督を務め、21年から総監督となった。 必要なことは教えるが、基本的には自主性を重視する指導を行ってきた。「自分で考えられる人間になってもらいたい」と強く願っている。 「場面、場面で何をするか考えようと言っています。でもできない。それが高校生なんですけど。自分の現状をわかっていない。それがわかってないと成長できない。ずっと言ってきたんですけどね」 少年チームの指導や野球教室の講師などをしている時に子供の興味を引くことが上手で、わかりやすい説明が決め手となって2002年からテレビ東京野球中継の解説者をお願いした。 当時、水上さんには「普通に見えるプレーでも、そのプレーの裏にあるすごさや大切な部分を子供や指導者にわかるように解説してください」とお願いした覚えがある。 野球人口の減少が顕著になり始めた時期でもあり、そういう解説があってもいいと思ったからだ。 当時の解説者に対する考え方として「なるべく早いタイミングでユニホームを着てほしい」というのがあった。外から野球を勉強する期間はそんなに長い必要はない、と考え、解説者の皆さんには監督、コーチとして球界に戻ることを念頭に置いてもらった。 もちろんチームにより事情があるし、タイミングだったり、こちらの思惑通りにはいかないが、水上さんには2007年日本ハムから声がかかり、二軍守備コーチとして復帰した。実に15年ぶりのユニホームだった。 それからソフトバンクを経て橘学苑で高校野球の指導者へ。 「ロン毛」で球団とトラブルを起こしてトレードに出されたり、「目立ちたがり屋だから、基本、全打席ホームランを狙ってましたよ」と言う常識にかからない異端の人。 というか、「やれと言われるとやらない。やるなと言われるとやる」という究極の天邪鬼(あまのじゃく)。それは本人も認めるところだ。そしてその生きざまは、故村田兆治氏ら「ザ・昭和」の面々から認められ、かわいがられた。 「神奈川で勝ち上がる」という結果は出ていないが、最終章もいよいよ佳境に入った。桐蔭学園3年の夏は、神奈川大会準々決勝で原辰徳(前巨人監督)にサヨナラ打を打たれ、東海大相模の前に涙を飲んだ。 マウンドにいたのは水上さんだった。「高校時代で覚えているのは相模との試合だけです」。リベンジは総監督として、いつの日か。 テレ東リアライブ編集部 E.T
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