【ラグリパWest】守ってもらっていた…。重光泰昌[花園近鉄ライナーズ/前アシスタントコーチ]
22年の間、近鉄ラグビーのために身も心も捧げた。今、そこから離れてゆく。 重光泰昌。44歳である。 「なんか、ずっとこのチームに守ってもらっていた感じがしています」 母なる花園近鉄ライナーズはリーグワンで最下位12位。入替戦は浦安DRに連敗し、二部落ちが決まった。 愛称「シゲ」は攻撃を担当したアシスタントコーチだった。プロとして単年契約だったこともあり、責任をとった形になる。 「コーチは勝たせないといけない、ということが身に染みてわかりました」 コーチとしては5季を過ごした。ここ3季は攻めのイメージはでき上っていた。タッチラインに近い「エッジ」と呼ばれる部分に決定力のあるFW選手を立たせ、素早くボールを運ぶ。そこから、「クロス」と呼ばれるスイッチプレーや内返しで変化を持たせる。 グラウンドを大きく使い、ボールをどんどん動かす思惑だった。 「ただ、ボールあってこそのアタックなんで…」 ブレイクダウンと呼ばれるボール争奪戦の場で負けると、どんな素晴らしいトライ攻略法も、机上の空論になってしまう。 シゲの口数は多くない。うまくいかなかったことを振り返るのは面白いことではないが、ゆっくりと言葉を選んで話す。 その寡黙さは現役時代から変わらない。このチームに社員選手として加わったのは新卒の2003年4月。ポジションはSOだった。 その秋、トップリーグが開幕する。リーグワンの前身だ。同時にチーム名は近鉄から近鉄ライナーズに変わった。 リーグ戦初出場は11月15日のリコー戦(現BR東京)。前半27分、吉村太一(前チームディレクター)に替わって出場。ゴールキックも決め、28-21の白星に貢献する。 2011年度にはリーグ最高の5位に入った。175センチに満たないシゲは正確なキックやスキーのスラロームのような緩急を使ったステップでチームを助ける。 シーズン後、ベスト・フィフティーンに選出された。この栄誉に浴したのは近鉄ラグビーにおいて、後にも先にもシゲただひとりである。LOとして日本代表キャップ71を持つトンプソン ルークもなし得ていない。 2017年には開幕戦の豊田自動織機戦(現S愛知)で35メートルのサヨナラDGを決めた。8月18日のナイトゲームは13-12だった。 「みんなそれを言いますね」 シゲはほほ笑む。それだけ、関係者やファンの心に残ったひと蹴りになった。 次の2018年度のシーズンを最後に現役引退する。39歳だった。日本代表にならった公式戦出場を示すライナーズ・キャップは実に176。昨年度でこのチームをあがったHOの樫本敦が13季で115。その凄みがわかる。制度ができてからはもちろん歴代最高だ。シゲは翌年度からコーチについた。 2019年度は二部のトップチャレンジで1位になった。しかし、この秋、日本開催のワールドカップがあり、事前の取り決めで入替戦はなかった。 コロナ明けの2021年はトップチャレンジ2位。翌年からリーグワンに衣替えするにあたり、一部のチームが16から12と4チーム減になった。近鉄ライナーズは二部のディビジョン2からのスタートになった。 2022年には一部に上がるが、その後、連続して最下位となった。こうして振り返れば、シゲのコーチ人生は「不運と苦難」と表現してもそうかけ離れたものではないだろう。次のチームは今のところ決まっていない。複数の社会人と話を進めているところだ。 この競技は中2で陶化(現・京都凌風)で初めて以来、伏見工(現・京都工学院)、龍谷大と進んで来た。この近鉄を含め、積み重ねたキャリアの中でコーチの真髄を知る。 「選手と人間関係を構築し、聴く力をもつことです。その上で、ブレない芯の強さが必要です。譲れるところは譲る。譲ったらあかんところは譲ったらいけません」 シゲは現役引退時に、入社から一筋に勤務してきた近鉄バスを退社する。そして、プロになった。その入社時の資格は、時期的にせっぱつまっていたり、1年遅れなども含め、幹部候補生である総合職ではなかった。 仮に総合職なら、シゲはプロになっていただろうか。それを質問するのを忘れた。第一級の功労者をその個人的実績のみで総合職に転換できるシステムは今の近鉄にはない。強豪化への道は雇用状態を柔軟に変えてゆけることも含まれるのではないか。 シゲの家族は4人。妻と男の子が2人いる。中1の瞳真(とうま)は東海大仰星中で、小5の結翔(ゆうと)は枚方(ひらかた)ラグビースクールで、父の背中を追っている。 「2人ともラグビーをやってくれてうれしい。楽しくやってくれたら、サッカーでも、野球でもなんでもいいんですけどね。趣味は子どもたちのラグビーを見ることですかね」 息子たちは活力を与えてくれている。22年間在籍した近鉄にはさまざまな思いがあるのだろうが、すべてをさらけ出すことはない。 「チームは変われるチャンスです。いい方に変わってもらえたら、と思います」 シゲは最後まで近鉄愛を貫いた。その理性に新天地での成功が見え隠れしている。 (文:鎮 勝也)