IR誘致撤回の山下ふ頭「緑と海辺生かす」 再開発へ一歩、検討委が横浜市へ答申案
横浜港・山下埠頭(ふとう)再開発の方向性を議論してきた横浜市の検討委員会(委員長=平尾光司・専修大社会科学研究所研究参与)が答申案をまとめた。近く市へ正式に答申する。林文子前市長の目指した統合型リゾート(IR)誘致を、山中竹春市長が白紙撤回してから3年余り。「都心臨海部の一等地」というポテンシャルを生かし、横浜の新しい象徴とするための再開発が一歩動き出す。 ■港を望む憩いの場 検討委が9日開いた最終会合で公表した答申案は、再開発の「目指すべき姿」として、世界に誇れる「緑と海辺」空間の創造▽横浜らしさとにぎわいが広がる都市モデルの構築▽持続可能な街の実現-と3つの方向性を併記した。 その実現例として、臨港パークから山下公園までの水際に連続する緑化空間やを形成したり、憩いの場となるオープンスペースの整備を提案。脱炭素や次世代モビリティー(乗り物)の導入へ向けた社会実験に活用したり、旅の目的地となる「付加価値の高い魅力的な施設」を設けたりする考えも示された。 検討委は昨年8月に学識者ら12人で発足し、その後6つの地域団体も加わって議論。市民から1万件を超す意見が寄せられたことを踏まえ、再開発の効果を市全体へ波及させることや、引き続き多様な意見を問うていくことが望ましいとの要望も盛り込まれた。 ■「市民の声」反映 市港湾局によると、今後は年内にも市が答申を受け取り、次の段階として再開発の具体像を描いた「事業計画案」の策定に入る予定だ。その進め方をめぐり、市民の意見をどう反映させるか議論が紛糾する場面も最終会合で見られた。 委員の幸田雅治・神奈川大教授は「IR誘致の際に市民意見を無視した反省に立つべきだ」とし、市民を含めた事業計画検討委を開催することを答申案に明記するよう求めた。 これに対し、他の委員からは「370万市民の意見を偏りなく集めるのは難しい」(内田裕子・イノベディア代表)、「事業者の公募条件を決める段階で市民意見を取り入れれば、うまくいくのでは」(デービッド・アトキンソン小西美術工芸社社長)などと異論が相次いだ。 平尾委員長は「再開発の基本的な方向性を答申するのが本委員会の目的だ。具体的な手法を論じるのは権限を越えている」と指摘。多数決の結果、幸田委員の提案は否決された。