EV離れが急速に進む韓国 原因はEVの深刻な弱点にあった
2024年8月、韓国・仁川のアパートの地下駐車場でメルセデス・ベンツのEVが火元とされる火災が発生した。約900台の車両が損傷を受け、23人が煙を吸い病院に搬送された。 鎮火には8時間以上を要し、炎の温度は1500度を超えたという。この火災の規模と激しさが注目を集め、韓国内ではEVの安全性に懸念が広がっている。 EVが抱えるバッテリー火災のリスクに自動車メーカーや政府はどのように対応していくべきなのか?
バッテリー充電のリスクに懸念
韓国で人気の中古車販売プラットフォーム「K Car」では、今回の火災後にEVを売却しようとするオーナーによる出品がほぼ3倍に増加したと発表している。 ソウルに住む会社員は、「EVは環境に優しい選択かもしれないが、火災が怖い」と述べ、仁川の火災を見てさらに恐怖を感じたと語っている。 地元メディアの報道やSNSでの反応は、バッテリー充電のリスクに焦点を当てており、自動車メーカーや政府当局はその懸念を和らげようとしている。 メルセデス・ベンツ韓国を含む一部の自動車メーカーは、オーナー向けに無償の安全点検を提供した。同社は、この火災を起こした車両に中国企業ファーシス・エナジーが提供したバッテリーが搭載されていたと発表している。ファーシスはコメントを拒否した。 韓国の大徳大学で自動車工学を教える李浩根教授は、「今後しばらくはEVの人気が減少するでしょう。人々は恐怖を感じています」と指摘する。
バッテリー火災の対策が課題
火災前、韓国のEV市場は急速に拡大しており、2023年では新車売り上げの9.3%を占めていた。政府は購入者向けの補助金やメーカー向けの税控除などの政策を打ち出し、2030年までに温室効果ガス排出量を2018年比で約40%削減する目標を掲げている。 また、韓国は2035年までにガソリン車の販売を終了することを目指している。政府は充電施設の設置に3715億ウォン(約408億円)を投資した。 韓国では過去6年半で約200件のEV火災が発生しており、6月には首都近郊のリチウムバッテリー工場で23人が死亡するという、近年で最悪の産業事故も発生している。 リチウムは小さなスペースに多量のエネルギーを蓄えられるが、いったん燃え出すと激しく燃焼する。韓国の消防当局によれば、リチウムバッテリー火災に対応するための政府承認の消火器は存在しない。 米国家運輸安全委員会のデータによれば、EV10万台あたりの火災発生件数は25件で、ガソリン車の1530件と比べてかなり少ない。しかし、バッテリー火災は規模が大きくなる傾向にあり、損害が甚大になる可能性があると李は述べている。 米国を含め各国でEVの安全性に対する懸念が高まっている。韓国では特に多くの人が集合住宅に住み、地下駐車場を共有しているため、仁川の火災がもたらした不安は大きかった。