『ソニックフロンティア』の楽曲があまりにもポスト・ハードコア好きに刺さるので、思わず2000年代の「神アルバム」を振り返ってみた! あなたのSaosinは、Cove派?Anthony派? あのころの “エモ” を忘れない
『ソニックフロンティア』の楽曲が、ことごとく刺さる。 “刺さる”といっても「この曲いいなあ」くらいのレベルではありません。胸が締めつけられるようなメロディー、重厚にたたみかけてくるギター、そしてハイトーンボイスとスクリーム。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 心が震えるそれらのサウンドは、ポスト・ハードコア(スクリーモ)と呼ばれるジャンル【※】が大きな盛り上がりを見せた2000年代に引き戻される感覚がありました。ロックシーンを爆発的に彩った2000年代のあのサウンドです。 そこで本稿では、2000年代におけるポスト・ハードコア界隈の「神アルバム」(筆者比)を10枚ほど挙げてみようと思います。令和のいま、ゲームメディアの記事で。 「そんなアルバムあったな~」とか「そのバンドなら1stより2ndだろ!」など当時の思い出を重ねながら読んでいただけたら幸いです。 そして少しでも共感いただけたら、そのあとご紹介する『ソニックフロンティア』の楽曲もぜひ聴いてみてください。きっと刺さるはずなので。 本稿の後半では『ソニックフロンティア』でサウンドディレクターを務める大谷智哉氏のインタビューや、同氏が選ぶ神アルバム10選もお届けいたします。好きなアルバムを10枚に絞るという苦悩を味わっていただきました。 よかったらこの記事を読んでいるみなさまの神アルバム10選も教えてください。10枚に絞るなんてできなくないですか……? 文/柳本マリエ ■あなたのSaosinはCove派?Anthony派?2000年代の「神アルバム」を振り返る まずはさっそく悩みに悩んだ10枚をご紹介いたします。 ・Finch「What It Is To Born」(2002) ・Funeral For A Friend「Casually Dressed And Deep In Conversation」(2003) ・Tooth & Nail Records「The Nail Volume One」(2003) ・Underoath「They're Only Chasing Safety」(2004) ・Saosin「Saosin」(2006) ・Pleymo「Alphabet Prison」(2006) ・Оригами「И Ангелы Ошибаются」(2006) ・LoveHateHero「White Lies」(2007) ・A Hope For Home「Here, the End」(2007) ・Empyr「The Peaceful Riot」(2008) ※年代順(好きな順だと一生決められないため) ・Finch「What It Is To Born」(2002) まずはFinchの「What It Is To Born」(2002)です。20年以上も前のアルバムだなんて信じられません。それもそのはず、いまでも日常的に聴いていますから。 1曲目の「New Beginning」からもう胸がこみ上げてきてしまうのですが、Finchといえばやっぱり「Letters To You」ではないでしょうか。この曲で盛り上がらなかったところを筆者は見たことがありません。なんといっても「I want you to know that I miss you, I miss you so」というサビが、英語をあまり話せない筆者にも歌いやすくて助かります。 中盤は「Perfection Through Silence」でしょう。まず出だしのギターがとにかくよい。筆者のなかで「この曲が好きな人は、A Change of Paceの「Death Do Us Apart」も好き」という説があります。賛同してくださる方はいらっしゃいますか……? そして終盤は「Ender」からの「What It Is To Born」で泣かせてくるから困ったもんだ。2009年の来日公演では出だしの「シェイッ、バ────────────ン!」で泣きました。 Finchは「Say Hello To Sunshine」(2005)の「Ink」や「Miro」も好きなので、絞るのが難しかったです。総合的に「What It Is To Born」(2002)を選びました。 ・Funeral For A Friend「Casually Dressed And Deep In Conversation」(2003) つづいてはFuneral For A Friendの「Casually Dressed And Deep In Conversation」(2003)です。もはや、彼らをいつどこでどのように知ったのかを覚えていません。気づいたら当たり前のように聴いていました。 このアルバムで筆者がとくに好きな曲は「Juneau」です。当時この「Juneau」のデモ版「Juno」が限定公開されていた記憶。現在は2013年にリリースされたアルバム「Between Order and Model」に「Juno」も収録されているようですね。ありがたい。 ・Tooth & Nail Records「The Nail Volume One」(2003) エモ、スクリーモ、メタルコア系のバンドが多く所属するレコードレーベルTooth & Nail Recordsは、UnderoathやAnberlinを輩出したことでも知られています。そのTooth & Nail Recordsのコンピレーションアルバム「The Nail Volume One」(2003)は歴史に残るアルバムのひとつではないでしょうか。 まずはその収録曲をご覧ください。 Thousand Foot Krutch「Phenomenon」 Anberlin「Ready Fuels」 Spoken「Promise」 Bleach 「Get Up」 Watashi Wa「All Of Me」 FM Static「Crazy Mary」 Starflyer 59「Underneath」 Fighting Jacks「Commons And Robbers」 Emery「Walls」 Mae「Summertime」 MewithoutYou「The Ghost」 Joy Electric「(I Am) Made From The Wires」 Lucerin Blue「Chorus Of Birds」 Dogwood「Faith」 Hangnail「Temporary」 Ace Troubleshooter「Ball & Chain」 Side Walk Slam「Time Will Pass You By」 Slow Coming Day「Pages Yet To Be Written」 Furthermore「 Letter To Myself」 The Juliana Theory「Duane Joseph」 ……ッ!!! どの曲もよすぎてどこから書いていいのかわかりません。しかしすべて書いていたら先に進めないので、3曲に絞ってご紹介させてください。 まずAnberlinです。筆者はこのアルバムで彼らを知りました。収録曲の「Ready Fuels」が出世曲だったと思います。そこから「Never Take Friendship Personal」(2005)や「Cities」(2007)がヒットしていきました。2009年の来日公演(TOTALFAT → New Found Glory → Forever The Sickest Kids → Anberlin)は、いまでも鮮明に思い出せるくらい印象に残っているライブです。組み合わせがよすぎませんか……? つづいてはMaeです。2022年に来日したばかりで、アルバム「The Everglow」と「Destination: Beautiful」を中心としたグレイテスト・ヒットを披露してくれました。もちろんこのアルバムに収録されている「Summertime」も。感染対策により声出しNGのライブだったのですが、Maeの場合はその静けさも楽曲に合っていたように感じます。 最後はSlow Coming Dayです。この「Pages Yet To Be Written」がとにかく儚い。少し寒くなってきたいまの時期に聴いたら胸がキュッとなって震えちゃう。どうやら2017年にリリースされたEP「A Part of Me Died」にはアレンジ違いver.が収録されているようです。どちらもよい。 ・Underoath「They're Only Chasing Safety」(2004) つづいては前述したTooth & Nail RecordsよりリリースされたUnderoathの「They're Only Chasing Safety」(2004)です。このアルバムは、ポスト・ハードコア入門としてとても適しているのではないでしょうか。激しいスクリームがありながらもクリーンパートの神々しさによって、独特のバランスが保たれていると思います。 そういったサウンドはポスト・ハードコアにおいて定石ではあるものの、Underoathは激しさと神々しさのレンジが広いため、飴と鞭のような感覚で気がつくと激しいサウンドに対する耐性がついている。Underoathを通ったことにより、聴ける幅が広がった印象です。 また、クリーンパート担当のAaronによる別プロジェクトThe Almostの「Southern Weather」(2007)は、力強さを残しつつもUnderoathとは異なる神秘性がある名盤。音楽性でいうとThe Auditionと近いように感じます。The Auditionといえば「Controversy Loves Company」(2005)の「You've Made Us Conscious」が名曲なので、もしまだ聴いていなかったらぜひ聴いてみてください。 Underoathの話をしていたはずなのに、いつの間にかThe Auditionの話にすり替えている自分が怖いです。 ・Saosin「Saosin」(2006) Saosinは、ボーカルが Anthony(1代目ボーカル)→ Cove(2代目ボーカル)→ Anthony(再び1代目ボーカル)→ Cove(ASIA TOUR 2023より再び2代目ボーカル)と変わっているため、派閥が分かれるのではないでしょうか。筆者がもしどちら派か問われたら、“ややCove派” かもしれないです。 というのも、SaosinはCove加入後にリリースされた「Saosin」(2006)で大きく飛躍したため、“最初のSaosin” がCoveだった人も多いはず。かく言う筆者もそのひとり。あとからAnthonyがボーカルを務めるEP「Translating the Name」を聴いているので、先にCoveが定着してしまっていたという経緯があります。さらに、アルバム「Saosin」(2006)は「Voices」「Finding Home」「You’re Not Alone」など楽曲そのもののよさもあるため、繰り返し聴いていました。 そのため筆者はややCove派となっています。これが、きのことたけのこだったら「たけのこ!」と即答できるのですが、AnthonyとCoveは即答できません。もちろん、どちらかに絞る必要はないのですが。 それともうひとつSaosinで特筆すべきこととして当時ものすごく衝撃的だったのは、Saosinの読み方が「セイオシン」だったこと。ずっと「サオシン」だと思っていたので国内盤の帯に「セイオシン」と書かれていたのを見たときは驚きました。いまでも心のなかではこっそり「サオシン」と呼んでいます。 ・Pleymo「Alphabet Prison」(2006) PleymoをはじめEnhancer、Vegastar、AqMEなどが所属していたニューメタル集団「Team Nowhere」や、彼らと親交が深いバンド(Watcha、Hass Hysteria、Bukowski、The Arrs、Kyoなど)を足して割ったらポスト・ハードコアと言えるのではないでしょうか。……と、無理やりこじつけてでも語りたい。 親日家で知られるPleymoは、1stアルバム「Keçkispasse」(1999)からすでに日本語歌詞の「K-ra」が収録されていました。とくにボーカルのMarcが「AKIRA」や「攻殻機動隊」から多大な影響を受けていることも有名です。 「Alphabet Prison」(2006)では「4 A.M. Roppongi」という六本木を題材とした曲が収録されており、「友だち100人できるわけないだろッ」など日本語の会話から始まるため、その情報だけを切り取ると “トンデモ日本” 的な印象を受けるかもしれません。しかしながら、Pleymoはとにかくセンスがいい。六本木についてこれだけねっとり歌いあげる曲を筆者はほかに知らないです。 またPleymoはアートワークも特徴的で、クリエイターでもあるボーカルのMarcとTeam Nowhere専属フォトグラファーのBERZERKERによるCDジャケットやMVは必見。とくに「Adrenaline」はストーリー性が強くてお気に入りです。 Pleymoについては「Alphabet Prison」(2006)の楽曲だけでなく、Team NowhereなどPleymoを取り巻く周りの環境も含めて選びました。 ・Оригами「И Ангелы Ошибаются」(2006) 筆者がロシア語を使うのは、この顔文字( ´Д`)かОригамиの話をするときくらいでしょう。Оригамиを知ったきっかけは、前述したPleymoのモスクワ公演でオープニングアクトを務めていたからです。 Оригамиをアルファベット表記にすると「Origami」。おそらくあの折り紙です。彼らに関する情報が少なすぎてバンドについての詳細はあまりわからないのですが、楽曲がとにかくいい。曲名も歌詞もまったく読めないけど、それでいい。 とくに「И Ангелы Ошибаются」(2006)の「Ради Чего」は、キャッチーでありながら激しいシャウトもある曲で聴きやすいと思います。Spotifyでは歴代のアルバムも聴けるので、ご興味あればロシア産ポスト・ハードコアもぜひ。 ・A Hope For Home「Here, the End」(2007) A Hope For Homeは、とにかく音が深い。「Here, the End」(2007)は、Maeの「The Everglow」をポスト・ハードコアにしたような音楽性です。曲と曲がつながっているため、入りも美しい。独特の儚さがあり、午前5時くらいの夜明けに聴くと最高に盛り上がります(筆者比)。 Spotifyの再生数を見たら、このアルバムにおいては1曲あたりの再生数が1000から2000くらいだったので驚きました。100万回くらい再生されていい名盤です。とくに「Kyle」という曲は出だしから儚すぎて心が震えました。 ゴリゴリしたいなら1曲目「Casting Light Through Such Thin Shades」や3曲目「(Grace) We Are the Heirs!」ですが、この手のアルバムは1曲目から通して聴くことで完成される気がします。 ・LoveHateHero「White Lies」(2007) 「White Lies」(2007)は “捨て曲のなさ” からいま現在も繰り返し聴いているアルバムのひとつ。いい意味で浮きも沈みもないアルバムのためずっと同じテンションで聴くことができます。 まったく同じ理由でIvorylineの「There Came A Lion」(2008)も繰り返し聴いているのですが、「White Lies」(2007)は1曲目「Goodbye My Love」のギターリフが耳に残るので選びました。 また、個人的すぎる余談で申し訳ないですが、筆者の結婚式のケーキ入刀でも「Goodbye My Love」を流してもらったので人生においても思い出の楽曲になっています。ちなみに結婚式の入場曲はThe All-American Rejectsの「Move Along」、乾杯はMy Chemical Romanceの「Dead!」、退場曲はFinchの「What It Is To Born」(シェイッ、バ───ン)でした。 ・Empyr「The Peaceful Riot」(2008) 最後の1枚は、「The Peaceful Riot」(2008)です。EmpyrはPleymoのベーシスト・Benoit、Vegastarのドラマー・Jocelyn、Watchaのギタリスト・Fred、そしてKyoのボーカル・Benとギタリスト・Florianが集まって結成したバンド。重厚なサウンドと軽やかなメロディーが刺さりました。 シングルカットされている「New Day」のMVはPleymoでボーカルを務めるMarcとTeam Nowhere専属フォトグラファーのBERZERKERが手がけているため、先述したPleymoの「Adrenaline」が好きな人に聴いてほしい1曲。 「The Peaceful Riot」リリースの翌年にはEP「Your Skin My Skin」(2009)、その2年後にはアルバム「Unicorn」(2011)をリリースし、現在は残念ながら活動を休止しています。 ■Sleeping with SirensのKellin Quinnが『ソニックフロンティア』のボーカル曲を担当 以上が、2000年代におけるポスト・ハードコア界隈の「神アルバム」(筆者比)でした。なんとなく傾向をご理解いただけたでしょうか。これらのアルバムのどこかに共感いただけたら『ソニックフロンティア』の楽曲もぜひ聴いてみてください。きっと刺さるはずなので。 なぜかというとまず『ソニックフロンティア』のボーカル曲の多くは、ポスト・ハードコアバンド「Sleeping with Sirens」のKellin Quinn【※】が歌っているからです。ここまで記事を読み進めていただいた方なら、それだけでもご興味いただけるのではないでしょうか。 『ソニックフロンティア』で遊んでいるとスーパーソニック戦(ボス戦)でKellinが歌う楽曲が流れてくるんです。 この曲が流れてきたらゲームの手は止まるでしょう……? 楽曲を手がけたのはサウンドディレクターの大谷智哉氏。そこで、ここからは同氏のインタビューをお届けします。『ソニックフロンティア』の楽曲が多くのポスト・ハードコア好きに届きますように。 ■【大谷氏インタビュー】アナザーストリーのThe END戦は「I’m Here」の3段活用でたたみけるように演出 ──第1弾のサウンドトラックCD「Stillness & Motion」が全150曲6枚組であったことにも驚きましたが、第2弾のサウンドトラックCD「Paths Revisited」も全46曲2枚組というボリュームに驚きました。ひとつのゲームに対して約200曲もの楽曲があることは異例なのではないでしょうか。第2弾の経緯についてお聞かせください。 大谷氏(以下、大谷氏): トータルでCD8枚分ですから、過去に私が手がけたサウンドトラックと比較しても最大規模です(笑)。アップデートコンテンツの仕様や演出するうえで必要と思われる楽曲を作った結果、このようなボリュームになりました。 曲数は基本的にゲームのコンテンツ量に比例していると思っていただいて間違いありません。第2弾サウンドトラックに収録されている楽曲は一部を除き、ほぼ第3弾アップデートのために作られた楽曲になります。 第3弾アップデートの冒頭で「私の何百万回ものシミュレーションの中で成功の可能性が低いものは、これまで考慮してこなかった。もしかしてそこにドクターを救う術があるのかもしれない」というセージ【※】のセリフがあり、そこから ソニックたちはアナザーストーリーを体験することとなります。 セージはその “If” に成功の可能性を見出すわけですが、音楽面でも本編では採用しなかったアイデアがたくさんあったので、それらを再検討することから始めていきました。私がこのプロジェクトの制作に専念することができたこともこのボリュームになった要因のひとつだと思います。150曲のサウンドトラックを仕上げたあとでもまだまだやりたいことがたくさん残っていることに自分自身驚きました。 ──第2弾サウンドトラックのボーカル曲については、Merry Kirk-Holmes【※】が歌うメインテーマの「I’m Here」をKellin Quinnが歌い、「I’m Here - Revisited」として収録されています。オリジナルを知っているからこそアレンジにしびれました。どういう議論のうえ、同じ曲を別のボーカルでアレンジする形となったのでしょうか? 大谷氏: ここはかなり悩んだポイントでした。Kellinに参加してもらった3曲は、ゲームを遊んでくれた方のリアクションや、Spotifyなどの再生数を見ても圧倒的な人気曲となっています。そのためアナザーストーリーを締めくくる楽曲に再びKellinを起用することはマストであると考えていました。 ──再びKellinを起用するという時点でかなり熱いですね。 大谷氏: しかしそれが新曲であるべきか、あるいは “If” のコンセプトに従い「Kellinが「I’m Here」を歌ったらどうなるのか」を実現するべきかの2択で検討していました。 悩んだ末、後者に賭けてみることにしたんです。なぜかというと、クライマックスの場面で聴いたことのない新曲がかかるよりも、すでに刷り込まれている「I’m Here」が新しいバージョンで流れるほうがグッとくるのではないかという結論に達したためです。 バトルの進行に合わせて、「I’m Here」(オリジナルのインストから歌入り)→「I’m Here - Orchestral ver.」(オーケストラ ver.)→「I’m Here - Revisited」(Kellin ver.)という「I’m Here」の3段活用で、たたみけるように演出しました。すべての演出が実装されて一連の流れを確認したときには手応えを感じましたね。 ──Kellinは楽曲についてどのような反応をしていましたか? 大谷氏: 「I’m Here - Revisited」におけるKellinの収録は、前回と同様にボーカルレコーディングのプロデューサーを務めるTyler Smythと進めていきました。最初に音源と要望を伝え、そこからアレンジを加えるラインをすり合わせていきます。 とはいえ彼らの楽曲に向き合うスタンスを全面的に信頼しているので「TylerとKellinらしく進めてください」とお任せして、私は国内でほかの曲のレコーディング作業を進めていました。 「ソニックシンフォニー」のロサンゼルス公演でKellinに会ったときにTylerとのレコーディングについて聞いてみたところ、「He is a blast!」と言っていたのでレコーディングを楽しんでくれたと思います。実際、オリジナル以上のボーカルトラックが送られてきたので、彼らの熱量に感謝しています。現地ではTylerも含めて3人で写真も撮れました。 ──「I’m Here - Revisited」でこだわった点や苦労した点についてお聞かせください。 大谷氏: オリジナルの「I’m Here」は『ソニックフロンティア』の楽曲コンセプトである「静と動」を1曲の中で表現していますが、「I’m Here – Revisited」は、新たな力を手に入れたスーパーソニックへと変貌を遂げる危うさとアグレッシブさを合わせ持つアレンジにしようと考えました。新たなイントロのフレーズを考え、ベーシックなアレンジを作ったのち、ギタリストやミキシングエンジニアのMEGさんにバトンンタッチして仕上げてもらっています。 Merry Kirk-Holmesが歌うオリジナルの「I’m Here」は、新境地を前に弱さや不安を抱えながらも強い気持ちをもって前に向かって進んでいくような曲だと思っています。一方でKellinが歌う「I’m Here - Revisited」は、神々しさと洗練されたクールさがあると思っていますが、どう思われましたか? ──おっしゃるとおり、まず神々しさを感じました。とくにイントロのフレーズが緊張感を演出していると思います。Merry Kirk-Holmesのオリジナルはまっすぐな力強さや “ひたむき感” があることに対し、KellinのRevisitedは少し冷静で “どちらに転ぶかわからない危うさ” がある印象です。 第3弾アップデートに伴い新しい楽曲もいくつかあるだろうとは思っていましたが、「そうきたか!」と意表を突かれました。「Kellinが「I’m Here」を歌う世界線」という、ストーリー以外のところにも “If” のコンセプトがあることに完成度の高さを感じます。 大谷氏: ありがとうございます。 ──プレイアブルキャラクターとなった、エミー、ナックルズ、テイルスのBGMも耳に残りました。それぞれの特徴をお聞かせください。 大谷氏: 困難な試練が待ち受けているアナザーストーリーでは、本編と同様にミステリアスで物悲しく、シリアスなBGMとなっています。ただ、“If” のコンセプトを軸にしているので、ここでも本編制作時には採用しなかったアイデアを取り入れることにしました。 そのひとつが「断片的なボーカル(ないしボーカルサンプル)を入れて、俯瞰的にキャラクターの気持ちを歌ってみたらどうか?」というアイデアです。「インストとボーカル曲の中間」といったところでしょうか。 歌詞の内容にも過去作のキャラクターテーマの歌詞からキーワードを引用し、それぞれの “キャラクターらしさ” を加えています。悩めるエミー、ファンキーなナックルズ、知的なテイルスなどキャラクターごとのエッセンスを曲に取り入れながら、ピアノと弦楽器で『ソニックフロンティア』らしいトーンにまとめました。 過去作のキャラクターテーマから考えると音楽のベクトルはだいぶ異なるためソニックシリーズらしくない楽曲かもしれませんが、思いのほか評判がよかったので安心しています。 ──第2弾サウンドトラックでとくに印象に残っている楽曲はありますか? 大谷氏: それでいうと、エンディングテーマの「I’m with you – Vocal ver.」ですね。「I’m with you」は本編のかなり初期に制作した曲です。本編では、The Endに向かって特攻する際に流れます。 このときの「I’m with you」の意味はどちらかというと「あなたをサポートします」(一緒にはいられないけど)的な意味だったのですが、アナザーストーリーの「I’m with you – Vocal ver.」は紛れもなく「あなたと一緒にいる」という意味の曲になりました。ラストシーンでこの曲が鳴り始めるタイミングは、何度も繰り返し観たくなるくらいお気に入りの場面です。私も開発者のひとりではありますが、この結末にしてくれて本当にありがとうという気持ちです。 ──先ほども「ソニックシンフォニー」のお話が出ましたが、Kellinも登場していたロサンゼルス公演はいかがでしたか? 会場の雰囲気などご感想をお聞かせください。 大谷氏: Kellinについては、彼のマネージメントと「ソニックシンフォニー」のプロデュースチームを繋いで出演交渉をしてもらい、ロサンゼルス公演にゲストシンガーとして参加してもらえることになりました。決まったときはテンションが上がりましたね。 『ソニックフロンティア』からは、「Undefetable」と「Break Through It All」の2曲を歌ってもらったのですが、かなり盛り上がりました。サビ前の「“It’s time to face your fear!” でオーディエンスの合唱が起きたら熱い!」と思っていたところ、曲の始めから終わりまで大合唱でした(笑)。 キャパ3000人以上の会場(Dolby Theatre)で演奏するのは初めてだったのですが、欧米ファンの方のノリがよく、シンフォニーバンドのメンバーもみんな楽しい人たちなので、ホームのような気持ちで取り組むことができました。Kellinもこのライブに対してとても前向きに取り組んでくれて、シンフォニーバンドでリードシンガーを務めるDave Vivesと声の相性もよく、最高のパフォーマンスで華を添えてくれました。こんな表現でいいのかわかりませんが、かなりいいやつでした(笑)。みんなKellinのことが好きになったと思います。 ──楽曲制作とライブはまったく異なることだと思いますが、「ソニックシンフォニー」ならではの見どころ(聴きどころ)や強みはどんなところでしょうか? 大谷氏: 「ソニックシンフォニー」は、歴代シリーズのインスト曲もボーカル曲も楽しめる、オーケストラ × ロックバンドのコンサートです。第1部となるAct1はリッチなオーケストラの演奏を堪能していただきますが、第2部となるAct2からはバンドが加わり、ロックバンド with オーケストラの編成になります。 繊細なオーケストラの演奏で始まったと思ったら、最終的にはオールスタンディングでメタルコア曲「Undefeatable」を大合唱しているような、そんなコンサートです(笑)。その振れ幅こそがソニック楽曲のポテンシャルであり、「ソニックシンフォニー」最大の魅力です。これまでゲームを遊んでくれているソニックファンの方はもちろんですが、音楽ファンの方にも楽しんでいただきたいと思っています。日本公演も成功させるべく準備をしていますので楽しみにしていてください。 ──ここで完全に個人的な質問をさせてください。今回の記事の前半でアルバムを10枚ご紹介させていただきましたが、大谷さんが選ぶ「神アルバム」10選も教えていただけますでしょうか! 大谷氏: 10枚に絞るのはかなり難しいですね(笑)。私はどちらかというと、古くはパンク、ラップ、ミクスチャーロックに始まり、オルタナティブ、エモ、メロディック・パンクを中心に聴いていました。近年はポスト・ハードコアやメタルコア方面に少しづつ歩み寄り、『ソニックフロンティア』で満を持してあれらの曲を作るに至ったという感じです。泣く泣く外したアルバムも多数ですが、そんな変遷を感じていただける10選になっているかもしれません。 ソニックシリーズで最初に作った曲がヒップホップ系の楽曲だったこともあり、Beastie Boysから入れてみました。 ・Beastie Boys「ILL Communication」(1994) ・Rage Against the Machine「The Battle of Los Angeles」(1999) ・LINKIN PARK「Hybrid Theory」(2000) ・The Mad Capsule Markets「010」(2001) ・ELLEGARDEN「RIOT ON THE GRILL」 (2005) ・My Chemical Romance「The Black Parade」 (2006) ・FACT「FACT」 (2009) ・A Skylit Drive「ASD」 (2015) ・Bring Me The Horizon「Post Human: Survival Horror」 (2020) ・Sleeping With Sirens「Complete Collapse」 (2023) ──ありがとうございます! かなり悩まれて選ばれたと思います。それでは最後に、この記事を読んでいるポスト・ハードコアファンに向けてメッセージをお願いします。 大谷氏: ソニックファン、ゲーム音楽ファンだけにとどまらず、音楽ファンも唸らせるクオリティの楽曲に仕上げたいと思って作っています。この記事を通して「ソニックのゲーム音楽はこだわっているな」と感じてもらえたらうれしいですね。(了) 『ソニックフロンティア』のサウンドトラックCD第1弾「Stillness & Motion」(全150曲6枚組)と第2弾「Paths Revisited」(46曲2枚組)は現在発売中。Spotifyをはじめ各種音楽配信サービスでも再生・ダウンロード可能です。
電ファミニコゲーマー:
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