直木賞受賞の大島さん、浄瑠璃には「語りの美しさがある」
令和最初となる第161回直木賞は、大島真寿美(ますみ)さんの「渦 妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん) 魂結(たまむす)び」が受賞した。17日夜の記者会見で、受賞の感想を聞かれた大島さんは、「びっくりしています。あまり実感がない感じです」と率直に語った。 第161回「芥川賞・直木賞」発表 古市さんまた受賞ならず(2019年7月17日)
中学の進路希望に「文筆家」
大島さんは、1992(平成4)年の「春の手品師」で第74回文學界新人賞を受賞して小説家デビュー。2014(同26)年の「あなたの本当の人生は」は直木賞候補作に。2回目のノミネートとなった今回は、候補作の作者全員が女性だったが、「たまたまそうなんだろうなと思ったくらい」で特に気にしなかったという。 受賞作は、江戸時代の文楽の作者・近松半二の生涯を描いた作品。「『妹背山婦女庭訓』(文楽の演目)で何か書ける、と思った先に文楽があり、近松半二がいた」。文楽の魅力について「本当に美しいし、物語そのものがダイレクトに伝わってくる。ちょっと異世界に入るくらい入り込める。素晴らしいものですし、次の世代に残していかねばならない」と力説する。 選考委員からは、大阪弁の語り口が読者を渦に巻き込むようだと評価された。名古屋市出身だが、「あまり苦労せずに書けちゃったんですけども、ただ(文章を)関西弁にしすぎると読みにくくなるので、そのバランスだけは気をつけました」。 浄瑠璃には「語りの美しさがある」といい、「語りが自分で書いていて気持ちよかった。語りはもうちょっとやりたいなという気持ちはある」と今後を見据える。 小さな頃から、自分は書き続ける人だと信じていた。中学3年生の時は、進路希望の調査票に「文筆家」と記した。今回直木賞を受賞したが、「中学の時から全然変わっていません。だからこれからも変わらないだろうなと思います」。 小説を書く時はいつも、結末を決めずに書き始める。「どうしてもこういう書き方しかできないんですよ。違う書き方ができるようになる可能性もあるかもしれませんが、これからも、今できることをやっていこうと思います」 (取材・文:具志堅浩二)