かつて自分を逮捕した刑事まで！あらゆる男を話術で虜にする”元ストリッパー”のママが経営した「伝説の店」
1960年代ストリップの世界で頂点に君臨した女性がいた。やさしさと厳しさを兼ねそろえ、どこか不幸さを感じさせながらも昭和の男社会を狂気的に魅了した伝説のストリッパー、“一条さゆり”。しかし栄華を極めたあと、生活保護を受けるに至る。川口生まれの平凡な少女が送った波乱万丈な人生。その背後にはどんな時代の流れがあったのか。 【漫画】床上手な江戸・吉原の遊女たち…精力増強のために食べていた「意外なモノ」 「一条さゆり」という昭和が生んだ伝説の踊り子の生き様を記録した『踊る菩薩』(小倉孝保著)から、彼女の生涯と昭和の日本社会の“変化”を紐解いていく。 『踊る菩薩』連載第78回 『”全盛期の王貞治”を超える月収!?...夜職→逮捕→出所からクラブ経営をした女性の驚きの収入』より続く
一条の話術
舞台に立っているころから一条の話は人気があった。裸や踊りだけでなく、公演の前と後に客と繰り広げるトークも人気の理由の一つである。 その話芸は店でも発揮された。ストリップ界の裏話、裁判や女子刑務所の話。珍しい体験談には事欠かない。それを開けっぴろげに語るのだから、面白くないはずがない。彼女が話しはじめると、カラオケ客が歌うのをやめ、聴き入るほどだった。加藤は懐かしそうに言う。 「店を開けるでしょう。そしたら、一階の喫茶店と居酒屋が、一条さんの店に入る順番待ちの客でいっぱいになって、歩道にも人が並ぶほどやったです。そりゃ、客あしらいがうまいったらなかった」 猥談もうまかった。口ひげの男に対して、「あんた、それで彼女のアソコをブラッシングするんでしょ」と言いながら、男のひげをなでる。男は照れて、店内には笑いが広がった。
意外な「客層」
俳優の小沢昭一もこの店を訪ねている。出所直後の彼女に芝居をやろうと誘い、断られながらも小沢は彼女を気に掛けていた。 仕事で大阪に来たとき、麻布中学、早稲田大学時代から仲のよかった文学座の加藤武と2人で訪ねた。「ぎおん」はすでに満席で、「一条」に回った。ここもほぼ満席だったが、なんとか席を空けてもらい、腰を落ち着けた。 一条は2軒の店を走り回っていた。小沢に気付き、「先生、よく来てくださいましたね」と言ったが、すぐに別の席から声が掛かる。客の目当ては一条で、彼女と話をするために来ている。一条もそれを知っている。元来、サービス精神の強い女性である。紫煙の立ち込める店内を、小走りで移動している。その様子を見ていた加藤(重三郎)が小沢に言った。 「客は一条さんと話をしに来ているのに、こんな中途半端なことをしていたらダメや。いずれどっちつかずになる。一店に集中するほうがええのやけど」 小沢は客の多くがストリップのファンだと思っていたが、周りと話すと、彼女の舞台を見た客はいなかった。ほとんどの客にとって、一条はスナックやクラブのママなのだ。
