堀の花いかだを進む舟…「日本はとても美しい」 桜を撮っていたロシア人青年は言った
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手や、北東北の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。 【画像】桜吹雪を駆け抜ける流鏑馬、花いかだ…春の青森をめぐる旅
人と馬が心を一つに 流鏑馬の魅力
北東北の遅い春を求めて青森を旅した。 最初に向かったのは青森県十和田市で、そこでは女性騎手だけの流鏑馬(やぶさめ)大会が開かれていた。 実に爽快な光景で、約30人の女性騎手たちが桜吹雪の中を馬と共に駆け抜け、的に向かって矢を放つ。 主催者によると、日本各地で行われている流鏑馬は奉納神事で、女性が参加することは難しい。 一方で、和式馬術に憧れる女性は多く、競技としての流鏑馬を愛好する人が増えているらしい。 「とても、楽しい!」 出場した福田安奈さん(22)の言葉に瑞々しさがほとばしる。 「流鏑馬を始めてまだ1年に満たないのですが、人と馬が心を一つにして楽しめる、本当に素敵なスポーツだと思います」
花びらを中心に集めて進む匠の技
青森県西部の弘前市に向かうと、散った花びらが水面を埋める弘前公園の「花いかだ」が見頃を迎えていた。 中堀では新型コロナウイルスの影響で休止されていた観光舟が3年ぶりに復活し、観光客を乗せて小舟が桜色に染まった水面を切り裂くようにして進む。 船頭の伏見要さん(74)が教えてくれた。 「花いかだの真ん中を舟が通ると、花びらが堀の端に寄ってしまうんです。常に花びらを堀の中心に集め、その中を舟が通るように操船するのは意外と難しいんですよ」 こんなに素晴らしいとは思わなかった、と感激する観光客の中に、サクラの写真を夢中で撮り続けていた東京在住のロシア人青年がいた。 「日本はとても美しいです」と話す彼は、私が尋ねる前に質問を遮った。 「どうか、ウクライナの戦争に関することについては聞かないでください」 北東北が美しい花盛りを迎えるなかで、遠く離れたヨーロッパでは、大きな戦争が始まっていた。 (2022年5月取材) <三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した>