来年も楽しみな大相撲 ―1年を締めくくる九州場所を終えて
2023年最後の大相撲本場所は、多方面で角界本来の像が垣間見えた。九州場所で大関霧島が13勝2敗で4場所ぶり2度目の優勝。昨年は3度も平幕が制したが、今年は全て三役以上が制覇したことになる。来年1月の初場所で綱とりに挑む霧島は理にかなった攻めが光った。2場所連続で千秋楽まで賜杯を争ったのが平幕熱海富士で、両雄とも活躍の裏にある下支えが強固。脳科学的な見地からも鍛錬の重要性が証明され、さらなる活性化のポイントが改めて浮かび上がった。
■鉄則通りの距離感
霧島の地力向上を象徴したのが胸突き八丁の終盤の2番だった。まずは12日目の関脇琴ノ若戦。ともに2敗で優勝争いに大きく影響を与える一番だった。霧島は右四つで浅く左上手を引いて頭をつけ、相手に何もさせずに寄り切った。体格的には186センチ、145キロの霧島に対して、琴ノ若は189センチ、170キロと一回り大きい。勝因の一つに、四つ身になったときの左上手と頭の位置が挙げられる。 体格や単純なパワーでは劣るのにまわしを取れば強い―。この点について、いみじくも場所前に語っていたのが、元小結大錦で元山科親方の尾堀盛夫さん。新入幕の1973年秋場所で横綱琴桜を倒して11勝する快進撃を披露し、三賞独占の快挙を成し遂げて旋風を巻き起こした。尾堀さんは自身の握力は強くなかったとした上で「まわしを持つ手の位置と頭が近ければ十分に力を発揮できるもの。反対にいくらパワーがあっても、遠ければ力は出にくい。そこは常に意識していた」と解説した。今回の霧島も左上手を取ると腕を直角に曲げ、頭を琴ノ若の顎の下から左上手に近い付近にあてがい、力強く引きつけて快勝した。 14日目には、またもや2敗同士の首位対決で熱海富士と当たった。この取組では先に右を差すと、左を巻き替えてもろ差し。右を深く差して密着し、寄り切った。相撲の鉄則に「差した方に寄れ」という言葉がある。理由は、差し手とは逆方向に出ていくと、上手投げや突き落としなど逆転技を食いやすいからとされる。今回の場合はもろ差しだったが、より深く差した右の方へ差し手を突きつけるようにして前進し、反撃の隙を与えなかった。