今国会成立は断念でも……検察庁法改正案の問題点とは 坂東太郎のよく分かる時事用語
●検察は国民の信を得てきたのか?
検察人事への「政治介入だ」との批判は、検察が独自の立ち位置にある公務員だからです。行政府の一員であると同時に、刑事事件の起訴権(裁判にかける)をほぼ独占し、公判では被告弁護人と対峙します。この立場を重視すると司法権にも属すと解せるのです。司法に行政(内閣など)が介入すれば、確かに三権分立を犯すことになるでしょう。検察は「首相をも逮捕できる権限がある」という報道もあります。 しかし、現憲法下で現職首相が逮捕された事例は皆無。前・元職でも芦田均、田中角栄の両氏のみ。反面、郵便不正事件など検察の暴走が厳しく問われた出来事もありました。検察は二言目には「独立」を唱えるものの、「『独善』の間違いではないか」と揶揄されてしかるべき失態も多く起こしてきたのです。 そもそも検事総長だろうが検事長だろうが、任命権は内閣に存します。「検察の人事は検察内部で決める。誰も手を出すな」とも受け止められる一部の主張には違和感を覚えます。任命権者に不適切なほどの権限を与えるのは批判されて仕方ないとしても、検察はアンタッチャブルかのような幻想を強いられたら、それはそれで三権分立の危機です。 自白を強要し、えん罪(ぬれぎぬ)事件にも組織として謝罪せず、取り調べの全面可視化に抵抗し、弁護士立ち会いも断固拒絶、まだまだ色濃い「人質司法」など、人事介入だと非難する以上、検察には自ら襟を正した振る舞いの1つも見せてほしいものです。 ----------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など