「飼い主の義務なのに…」狂犬病の予防接種率100%→70%台に低下 犬も人もほぼ確実に死ぬ恐ろしい病…打たなくても大丈夫?
日本で狂犬病の予防接種率が低下している。厚生労働省の統計では、30年前はほぼ100%だった接種率は徐々に低下し、近年は70%台で推移。保健所や獣医師らによると、予防接種を受けない理由として「副反応が嫌」「室内犬で外に出ない」「日本では発生していないから」といった意見がある。しかし、狂犬病は発病すれば犬も人もほぼ確実に死ぬ恐ろしい病気で、長野市保健所の担当者は「予防接種は飼い主の義務。100%の犬が注射を打ってほしい」と訴えている。 【動画】「もう終わり?」まるで神業!犬のお尻に手際良く予防接種を打つ獣医師
嫌がる犬、余裕の犬
「ギャワワワン!!」。5月上旬、長野市大豆島の市民センター駐車場に、狂犬病の予防注射を打たれた柴犬の悲哀に満ちた鳴き声が響き渡った。駐車場はこの日、地域の犬たちの予防接種会場になり、飼い主に連れられた犬たちが続々と到着した。足を踏ん張って動こうとせず、ずりずりと引きずられながらやってくる犬もいれば、終始おとなしくて注射を打たれても尻尾を振り続ける犬もいた。
「飼い主の責任」
柴犬の雄「銀」を連れてきた水泳インストラクターの轟晴喜さん(19)は「予防接種は毎年受けている」と話した。その理由を聞くと、予防接種を受けていない犬が脱走して子どもらをかんだ群馬県内の事件に触れ、「狂犬病は恐い病気。予防接種は飼い主の責任と思っている」と話した。
獣医師の指摘
慣れた手つきで犬のお尻に注射を打っていた獣医師の佐藤敬太さん(47)は、予防接種率が低下していることに対し「日本で狂犬病が発生していないからと言って、予防接種を受けさせない飼い主はたまにいる」と話した。しかし、佐藤さんは「外国との流通や交流が盛んな今、狂犬病ウイルスがいつ日本に入ってきてもおかしくはない」と指摘する。
厚生労働省によると、日本国内を由来とした狂犬病の発生は1956(昭和31)年を最後にない。しかし、1957年以降も、海外で犬にかまれて狂犬病を発病した4人が国内で亡くなっている。狂犬病の発生を抑えている国は、日本やオーストラリアなどの数カ国のみで、世界では推計で年間約5万9千人が死亡している。佐藤さんは「狂犬病の発生を抑えていることは日本の誇りであり、撲滅に努めてきた獣医師ら先人のおかげ」と話す。
人と犬の平穏な関係を維持するために
長野市保健所の笠原和浩さん(53)は、「人が狂犬病に感染する原因は9割以上が犬。そのため、犬への対策が大切」と強調する。予防接種の副作用で痛みや食欲不振が出る犬もいるが、「歴史的に犬の狂犬病発生を抑えることで、人への感染を抑えてきた」と理解を求める。狂犬病予防法では、狂犬病を発病した犬が出た場合、都道府県知事は「その区域内のすべての犬に口輪をかけ、又はこれをけい留することを命じなければならない」と定めるなど、犬と飼い主への強い制限が可能になっている。笠原さんは「人と犬の平穏な関係を維持するためにも、全ての犬が狂犬病の予防注射を受けてほしい」と訴えている。