「覇気のない」演説から見えるプーチンの焦り、ウクライナは逆に夏の反攻作戦準備に注力へ
2023年6月に始めた第1次反攻作戦は、F16戦闘機による上空からの援護なしに行ったことが失敗の大きな要因になった。 では、なぜウクライナ軍は夏に反攻開始を目指しているのか。それは6月、7月以降の重要な外交日程をにらんでいるからだ。 ウクライナが提唱する和平案「平和の公式」について話し合うためスイスで6月半ばに首脳級のハイレベル会合が開かれる。また7月にワシントンではNATO(北大西洋条約機構)首脳会議が開催され、NATOとウクライナとの相互関係をめぐる協議が行われる。いずれかの会合で、ウクライナは侵攻で優位に立っていることを誇示する必要がある。
これらの会議がウクライナ情勢に大きな影響を与えるのは論を待たないだろう。ウクライナとしては、国際社会に向けて軍事面での成果を誇示することで、現在のロシア軍優勢論を打ち消しウクライナへの支援の機運を高めることを狙っている。 ■「もしトラ」をにらんだウクライナ外交 同時に2024年11月のアメリカ大統領選もにらんでいる。ウクライナへの軍事支援に消極的とみられるトランプ氏が大統領選で返り咲く可能性を想定しているためだ。
大統領選前にロシア軍に対する軍事的優位性をしっかり印象付けることで、トランプ氏がウクライナ支援の縮小を言い出しにくくなる政治的環境を事前に作り出すことが狙いだ。 ガザ紛争で国際社会の関心が中東情勢に移る中、ゼレンスキー政権としてはウクライナへの前向きな関心を取り戻すために「軍事的に今やるしかない」(軍事筋)との覚悟だ。
吉田 成之 :新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長