「覇気のない」演説から見えるプーチンの焦り、ウクライナは逆に夏の反攻作戦準備に注力へ
撤退することでロシア軍との激戦をできるだけ回避し、自軍の主力兵力を温存する一方で、ロシア軍の戦線を間延びさせて兵力を消耗させ、補給上の負担も重くさせる作戦だ。 ウクライナ軍事筋は「これまで東部でウクライナ軍はロシア軍の攻勢に対し、守りに徹しているが、守備ラインは一度も完全に崩されたことはない」と強調する。 この戦略はいわば、戦力が整うまで攻撃用兵力を温存する「時間稼ぎ」である。そのウクライナ軍が6月から8月の間にロシア軍への反攻作戦を再開すべく準備を密かに開始している。
この準備の動きを象徴するのは、2024年5月9日にゼレンスキー大統領が突然発表した特殊作戦軍のルパンチュク司令官の解任だ。ルパンチュク氏は2023年11月に司令官に就いたばかりだった。 解任人事の背景にあるのは、2023年秋に始まったドニプル河右岸でのウクライナ軍の渡河作戦の停滞だ。作戦を担当していたのが特殊作戦軍だった。 ロシア軍の激しい抵抗を受けてウクライナ軍の橋頭堡が広がらないため、業を煮やした大統領が司令官の交代に踏み切ったと筆者はみる。近く橋頭保を拡大する攻撃を始める計画だろう。
ドニプル河東岸以外に反攻作戦の対象地域は、ロシア軍が比較的手薄なアゾフ海北岸の南部とクリミアになるだろう。 南部で狙うのはロシア本土からドンバス州、ザポロジェ州ベルジャンスク、メリトポリに至る鉄道補給路の遮断だ。ここでの攻撃で活用が期待されているのが、長距離砲のほかに、特殊作戦軍が指揮するパルチザン部隊だ。 一方で、クリミアへの攻撃ではクリミア大橋の破壊がメーンになる。2024年4月にアメリカが初めて供与したばかりの最大射程が300キロメートルとなる長射程地対地ミサイル「ATACMS」(エイタクムス)による橋脚への攻撃だ。
■ロシアの出撃基地をうまく叩けるか このATACMSは「コンクリートクラッシャー」とも呼ばれるほど破壊力が大きい。このミサイルを一度に複数撃ち込めば、橋脚の破壊が可能という。 このような攻撃で南部とクリミアの補給路を同時に通行不能にすれば、その軍事的影響は大きい。ロシア軍にとってウクライナへの重要な出撃基地となっているクリミア半島が、ロシア本土との接続を断たれ出撃基地としての機能を喪失する。 ウクライナが準備を進めている今後の反攻作戦では、F16戦闘機による上空からの援護も想定した「立体的」な攻撃を行う予定だ。F16は2024年夏には欧州諸国から供与が開始される見込みだ。