■横浜流星、憧れの俳優・山田孝之と初共演「存在感は出そうと思って出せるものではない」
■クランクイン前に行われた藤井監督、横浜流星、山田孝之での食事会
――沙耶香の部屋で対峙するシーンは、緊張と緩和のバランスもすごかったですよね。 横浜:あのシーンが山田さんのクランクインだったんですよね。 山田:そうそう。あの撮影の前に藤井監督から「3人で会いましょう」と連絡があったんです。たぶん藤井監督はあのシーンのことを話したかったと思うんです。でも僕は作品に入る前って、実際はまだ役になっていないので、あまり先入観を持ちたくないんです。だから閉店間近まで、ずっと作品に関係ない話しかしなかった。藤井監督は話したそうでしたけど(笑)。 ――横浜さんは山田さんの意図に気づいていたのですか? 横浜:全然作品の話にならなかったので、「これはなんの会なんだろう…?」という思いはありました(笑)。僕は山田さんの話を吸収したいから、ずっと聞いていました。 ――役について考えてはいくものの、やっぱり現場でぶつけ合って生まれるものが大切なんですね。 山田:それはとても大切だと思います。 ――激しいアクションでしたが、たくさんのテイクを重ねたのでしょうか? 山田:そうです。取っ組み合いのアクションでは、セットが崩れたり、動きが大きかったりするので、段取り通り一発でうまくいくなんて奇跡に近いんですよ。それと、初日だったので緊張していて、かなり本気でいってしまいました。 横浜:その方がリアルに芝居ができるのでありがたかったです。又貫が本気で来てくれたので、こちらも思い切り、本当に泥臭く向き合えました。 ■横浜流星、憧れの俳優は「山田孝之」 ――横浜さんは、以前から山田さんを憧れの俳優と話されていました。お芝居で対峙するのは初めてだと思いますが、いかがでしたか? 横浜:芝居も人柄もたたずまいも、すべてが学びでした。存在感って出そうと思って出せるものじゃないなと改めて感じました。鏑木としては、又貫に対面して捕まったらすべてが終わってしまう。そういった危機感を、山田さん演じる又貫の圧倒的なオーラによって、死に物狂いで人間臭く演じることができました。 山田:そう言っていただけるのはうれしいです。でも、こちらは又貫として対峙しているので、ほぼ客観的な目線はないんです。もちろんセリフやタイミングとか段取りがあるので、ほんの数パーセントの客観は残しますが、やっぱり役としてしか見ていない。だから、流星だからどう…っていうことではないですね。 横浜:そうなんです。こちらも鏑木として生きているので、山田さんへの尊敬はありつつ、「逃げなければ…」という思いだけです。 ――山田さんから見た横浜さんの鬼気迫る鏑木はいかがでしたか? 山田:鏑木でしたよね。それぐらいやらないとできない作品。それは『正体』に限ったことではないのですが。でも俳優ってそういうものだと思います。 ――そういうものとは? 山田:俳優という職業は、作品の内容やセリフを覚えるみたいなことがあると思いますが、一番は“役として生きること”。今回だったら、流星が鏑木を理解して、誰よりも鏑木としてそこに生きること。そこにいるのは横浜流星ではなく鏑木なんです。この世の中に鏑木という人間が存在しているんだと思ってもらうことが、俳優としての一番の醍醐味だと思うんです。その意味で、流星は鏑木でした。 ――横浜さんも山田さんも「次にどんな人物になるのだろう」とワクワクする俳優さんです。 横浜:そう思ってもらえるとやりがいになります。 山田:これからも、変な役やりますよ!まあ僕は変だとは思っていないですけどね(笑)。 取材・文/磯部正和 写真/山崎美津留