リミックス制作の先駆者として知られる才人・ニルソンの傑作『空中バレー』
OKMusicで好評連載中の『これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!』のアーカイブス。今回はニルソンの3rdアルバム『空中バレー(原題:Aerial Ballet)』を取り上げる。1968年、世界的なスターとなっていたビートルズが会見の席で「アメリカで注目しているアーティストは?」との質問に、ジョン・レノンとポール・マッカートニーがひとりのアーティストの名前を挙げ大きな話題となった。それがニルソンである。ニルソンはスタンダード曲のような本格的なポピュラー音楽のスタイルとサイケデリックなポップを混ぜ合わせたり、一人多重録音による斬新なヴォーカルアレンジを提示したりするなど、ポピュラー音楽界で独特の立ち位置を獲得したアーティストである。彼の歌う「うわさの男(原題:Everybody’s Talkin’)」は日本でも未だにさまざなメディアで使われているので聴いたことがあるのではないだろうか。本作はその「うわさの男」を収録した初期の傑作である。 ※本稿は2019年に掲載
日本にない“スタンダード”という音楽スタイル
音楽ファンであれば、一度は“スタンダード曲”という言葉を耳にしたことがあると思う。スタンダード曲とは同じ国に住む人なら老若男女を問わず誰もが絶対に知っている楽曲群のことである。スタンダード曲はロックンロールが誕生した1950年代後半に縮小してしまうのだが、ジャズの世界では今でもちゃんと通用する言葉であり概念だ。アメリカのエンタメ界にはミンストレルショーやヴォードヴィルなどから派生した、劇中に台詞を歌で表現するミュージカルのスタイルが古くからあったが、ミュージカル映画の登場で一気に全米に広がっていく。基本的にスタンダード曲はミュージカル(ミュージカル映画も含む)の中で使われた曲で、長い間愛され、いつの間にか誰もが知る曲になったものを指す。 スタンダード曲の有名なところでは、ホーギー・カーマイケルの「スターダスト」「我が心のジョージア」、ジェローム・カーンの「オール・ザ・シングス・ユー・アー」「煙が目にしみる」、コール・ポーターの「ラブ・フォー・セール」「ナイト・アンド・デイ」、アーヴィング・バーリンの「ホワイト・クリスマス」「ブルー・スカイ」、ロジャース&ハマースタインの「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」、ヘンリー・マンシーニの「ムーン・リバー」「酒とバラの日々」などがあり、これらは今でもジャズのジャムセッションではよく演奏されている。