【何観る週末シネマ】話題のホラークリエイターチームが描いた恐怖と好奇心の距離感『サウンド・オブ・サイレンス』
この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、現在公開されている『サウンド・オブ・サイレンス』。気になった方はぜひ劇場へ。 【写真】『サウンド・オブ・サイレンス』場面写真【4点】 〇ストーリー ニューヨークで歌手を目指しているエマは、オーディションに落ち続け自信を失っていた。そんな中、実家で暮らす父親が入院したという報せが入り、恋人のセバと一緒に故郷のイタリアへと向かう。父親は面会謝絶となっており、病院で居合わせた母親に理由を聞くが、急に暴れ出した父親から殺されそうになったと震えるばかりだった。その夜、実家に泊まることになったエマは、ガラクタ修理が趣味だった父親の隠し部屋で、古いラジオを見つける。すると、突然ラジオがひとりでに音楽を流し始める。不審に思いつつもスイッチを切るが、その瞬間何かの気配を感じ取る。エマがスイッチを入れて再び音楽が流れ始めると、“それ”は確実に目の前に現れた……。 〇おすすめポイント 音が記憶を記録している。そういったことは日常にあふれているはずだ。 例えば歌を聴くと、自分自信の過去を思い出し、懐かしい、悲しい、楽しい……、あるいは怖かった記憶が呼び起こされることがあるはずだ。そういった記憶というのは、日常的に思い出すことではなく、音を聴くことで呼び起こされる記憶ともいえるだろう。つまり音と記憶は密接な距離感にあるのだ。 今作は音と記憶の距離感をホラーとして描いた作品となっている。演出もオーソドックス。良い言い方をすれば安定した作品。そしてクリエイターたちのホラーに対する熱意や敬意、才能は確かに感じる。しかしストーリーは、なかなかシンプルだ。 では、何が優れているかというと、恐怖と好奇心の絶妙な距離感を描いている点だ。 よくホラー映画を観ていると、よせばいいのに、音がした方をあえて見に行って、まんまと殺されてしまうというシーンがよくある。こういったキャラクターたちは、作品を盛り上げるための演出として存在していて、現実世界では、絶対にそんなことをしないだろうという行動をとったりもする。 ところが今作は、恐怖だけではなく、怖くても”知りたい”という好奇心の部分がより鮮明に描かれているため、あえて恐怖に突き進むことに対する説得力がある。シンプルなストーリーだからこそ、そういった心理状態が描けたわけだから、そこまで計算されているのだ。 今作を制作したのは、イタリアを拠点に、主に短編を制作してきたホラークリエイターチーム「T3」。その初の長編作品となるのが今作であり、すでに長編第2弾となる新作『The Grieving』を制作中である。 チームで制作しているため、今作も監督が三人いるのだが、全体的にガチャガチャさせず、要点だけをつまみ、上手くまとめていることにもチーム力の強さを感じさせる。 ちなみに今作は同名短編を長編化したものだが、同じく短編の『The Crying Boy』とリンクする部分もあることから、今後『The Crying Boy』の長編映画化や「死霊館」のようなユニバース化も視野に入れているのかもしれない……。 (C) 2022 T3 Directors SRL 〇作品情報 監督・脚本・撮影・編集・製作:アレッサンドロ・アントナチ、ダニエル・ラスカー、ステファノ・マンダラ 出演:ペネロペ・サンギオルジ、ロッコ・マラッツィタ、ルチア・カポラーソ、ダニエル・デ・マルティーノほか 製作:ラファエル・リナルディ、リカルド・スカルヴァ 2023年/イタリア映画/英語・イタリア語/93分/シネスコ/5.1ch
バフィー吉川