日銀の「金融緩和」長期化で銀行の収益モデルが変わる?
日本銀行が22日に発表した「金融システムレポート」では、銀行の収益モデルに関して欧米の金融機関の取り組みが紹介されました。日銀は超低金利政策を続けていますが、銀行への影響を懸念する見方もあります。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【グラフ】貿易戦争の恐怖に持ちこたえたか「日銀短観」5つのポイント
超低金利で銀行の収益は圧迫される?
日銀の金融緩和が銀行収益の圧迫を通じて実体経済に悪影響を与えるとの指摘や批判があります。低金利政策によって貸出利ザヤが縮小すると、銀行が貸し出しに消極的になることから、かえっておカネの流れが悪くなり、場合によっては倒産・失業が増えるとの懸念です。 こうした懸念は日銀がマイナス金利を決定して以降、特に大きく問題となりましたが、目下のところ、それは杞憂に終わっています。借り手である事業法人が回答した「銀行貸出態度(日銀短観)」は極めて緩和的な領域にあり、銀行が貸出審査基準を厳格化している様子がうかがえないからです。つまり、低金利政策によって銀行が貸し出しを渋るという「副作用」は現段階で表面化していないと考えてよいでしょう。 しかしながら、低金利政策は長期化が見込まれることから、やがて銀行の体力が低下し、本来必要なところに資金が提供されなくなる可能性も否定できません。銀行は半公共的な性格を有していますから、儲けすぎは良くないのですが、一方で1997年頃から2000年代前半までに経験したような「貸し渋り」、あるいは業績不振による公的資金注入も望ましくありません。こうして考えると、銀行は事業の持続性確保という点において、提供するサービスの適正対価に関する顧客の理解を得つつ収益を確保していくことが重要と言えるでしょう。
欧米の銀行が採る「口座維持手数料」制度
そこで参考にすべきは米国や英国の銀行の収益モデルです。欧米の銀行では「口座維持手数料」といって銀行に口座を持っているだけで、手数料が徴収される制度があります。最低預金残高など銀行が設定した要件を満たしていれば免除されるのですが、そうでない場合、年間15ドル程度の手数料が徴収されます。銀行は、未稼働の口座でもそれを維持しているだけでシステム費などのコストがかかるので、その負担を顧客と分担するという趣旨です。こうした発想は銀行が民間企業である以上、ある意味自然なことかもしれません。 翻って日本。かつて邦銀に公的資金(広義の税金)を注入した経緯もあってか、銀行が顧客から手数料を徴収することに国民が強い不満を抱く傾向があり、そのため口座維持手数料のようなものが国民の理解を得るとは考えにくいです。 しかしながら、今後、銀行が生き残りを模索する中で、話は変わってくるかもしれません。口座を無料で開設した後、その口座が何らかの理由で5年や10年などの長期にわたって休眠状態になり、その間システム費用は銀行が全て負担するのでは、銀行の収益が過度に圧迫され、社会的な無駄が生じてしまいます。 日銀は半年に一度まとめる「金融システムレポート」(2018年10月22日発表)でこのような欧米金融機関の取り組みを例示し、邦銀がそれに倣って新たな収益を模索することが望ましいとの見解を示しています。これは「金融緩和の副作用が厳しいなら、あらたな収益を探しなさい」とのメッセージに思えて仕方がありません。日銀の金融緩和策によって思わぬ形で銀行の収益モデルが変わる可能性があるでしょう。
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