「あの一言、まだ忘れられない…」気にしすぎる自分を責める前に知りたいこと
「自分は何も持っていない」「いつも他人を妬んでしまう」「毎日がつまらない」――誰しも一度は感じたことのある、やり場のない鬱屈した思い。そんな感情に寄り添ってくれるのが、イラストエッセイ『ぼくにはなにもない 愛蔵版』。小説家だけではなく、大人気ゲーム実況グループ「三人称」の鉄塔としても活躍する賽助氏も本書の読者だ。この記事では本の感想も交えながら、賽助氏が考える「心の持ち方や生き方」について語ってもらった。(構成/ダイヤモンド社・林拓馬) 【この記事の画像を見る】 ● 人に言われた些細なことが気になるとき、どうすればいい? 「人に言われた些細なことが気になってしまう人」と「全く気にしない人」の違いについて考えると、それはその人の性格や捉え方、そしてその言葉が自分の心にどれだけ深く刺さったかによるのだと思います。 僕自身について言うと、正直、人に言われたことはあまり覚えていないことが多いです。 ただ、自分が言ってしまったことや、やらかしてしまった失敗については長く引きずるタイプですね。なので、質問の内容とは少し逆の立場かもしれません。 もちろん、すごく大きなことや衝撃的な言葉であれば覚えています。 ただ、それ以外の些細なことは割とすぐ忘れてしまいます。 これは、「気にしない性格だから」というより、単に記憶力の問題かもしれません(笑)。 一方で、自分が誰かに言ってしまった何気ない一言に対して、「あのときのあの言葉、大丈夫だったかな?」と、しばらく考え続けてしまうことがあります。 相手の反応が特に変わらなければ、「まあ、大丈夫だったのかもしれない」と思えるようになりますが、それまでの間はずっとモヤモヤしているんです。 一方で、誰かに言われた言葉が心に強く残る場合、それはその言葉が自分の大切な部分や、コンプレックス、弱い部分に触れているからなんだと思います。 たとえば、僕が忘れられないのは、大学時代にゼミの教授から言われた「君には向いていないんじゃない?」という一言です。 その言葉を言われた瞬間の空気感や、その場の光景、さらには日の差し方まで覚えているくらい、強烈に記憶に刻まれています。 その理由は、きっとその言葉が自分にとってすごく大事なテーマに触れていたからなんでしょうね。 また、昔、あるパーティで言われた言葉も忘れられません。 たぶん相手は酔っ払っていたからこそ出た言葉だったと思いますが、それでも僕にとっては「こんなふうに見られていたのか」と心に引っかかり続けています。 その一言は、周りからすれば何でもないような言葉だったのかもしれません。 でも、自分にとって重要な部分に触れる内容だったからこそ、ずっと心に残り続けているんです。 こうした「些細な言葉が気になるかどうか」というのは、結局、その言葉が自分にとってどれだけ意味を持つか次第だと思います。 そして、それがポジティブに捉えられるか、ネガティブに捉えられるかは人それぞれです。 僕の場合、これらの言葉はネガティブに感じたこともありますが、一方でそれをバネにして「次はもっと頑張ろう」と思えたり、「見返してやりたい」とモチベーションに繋がることもありました。 だから、忘れられない言葉って、必ずしも悪いものではないのかもしれないですね。 ただ、自分が誰かに言った言葉については、また別の話です。 自分の中で「あの言葉は大丈夫だったのかな?相手を傷つけていないかな?」と思い続けることが多いです。 例えば、何気ない一言が相手の心に刺さっていたらどうしようと不安になります。 しばらくして、相手の態度や対応に特に変化がないと、「まあ、大丈夫だったのかな」と少しホッとする。 そして最終的には忘れてしまうことも多いですね。 でも、こういう経験があるからこそ、「言葉には気をつけよう」と自分を戒める部分もあります。 結局、「些細なことを気にする人」と「気にしない人」の違いは、その言葉が自分にとってどれだけ重要か、どの程度心に刺さるかで変わるんだと思います。 そして、その言葉をどう扱うか――つまり、気にし続けるのか、それとも消化して前向きに変えていくのか――は、その人の性格や考え方次第なんじゃないでしょうか。 どちらが良い悪いではなく、自分にとってどうプラスに変えられるかを考えるのが一番大切なのかもしれません。 (本記事は『ぼくにはなにもない 愛蔵版』の感想をふまえた賽助氏へのインタビューをもとに作成しています) 賽助(さいすけ) 作家。埼玉県さいたま市育ち。大学にて演劇を専攻。ゲーム実況グループ「三人称」のひとり、「鉄塔」名義でも活動中。著書に『はるなつふゆと七福神』『君と夏が、鉄塔の上』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)『今日もぼっちです。』『今日もぼっちです。2』(以上、ホーム社)、『手持ちのカードで、(なんとか)生きてます。』(河出書房新社)がある。
齋藤真行/さいとう れい