矢吹有里院長

　骨がもろくなり、骨折しやすくなる「骨粗しょう症」。国内の患者数は1590万人と推計され、7割以上が女性だ。更年期以降は骨密度の低下により骨折のリスクが高まるだけでなく、「老け顔」の原因にもなるという。20日の「世界骨粗しょう症デー」を前に、「ゆりクリニック」（東京）院長で整形外科医の矢吹有里さんに話を聞いた。　（新西ましほ） 【画像】骨密度が高く健康な骨と、骨密度が低くて内部がスカスカの骨 　「骨は肌と同じように、古くなった骨を壊し、新しい骨が作られるという新陳代謝が毎日繰り返されており、3～5年で全身の骨が入れ替わっています」と矢吹さん。加齢などによってこの骨代謝のバランスが崩れると、骨を作るのが壊すスピードに追いつかなくなり、骨の内部がスカスカになってしまう。 　骨密度のピークは20歳ごろ。女性は、閉経で骨代謝のバランスを保つ女性ホルモン「エストロゲン」の分泌が減ることから、更年期になると急激に骨密度が低下する。男性は、50代ごろから緩やかに下降。ただ、糖尿病などの生活習慣病があると骨の質が劣化し、骨折しやすくなるため注意が必要だ。 　矢吹さんは「植木鉢を持ちあげるとか、くしゃみとか、ちょっとしたことで骨折する患者さんが多い」と話す。頻度が高いのは背骨の圧迫骨折だ。痛みが少なく、気づかないうちに骨折しているケースも少なくない。放置していると上下の骨に負担がかかって圧迫骨折が連鎖し、背骨が大きく曲がって生活がしにくくなり、転倒の危険も増す。 　最も怖いのは、大腿（だいたい）骨（太ももの付け根の骨）の骨折。寝たきりとなって要介護状態となってしまったり、手術がうまくいってもつえや歩行器が必要になったりと、骨折前と同じ生活に戻ることが難しくなる。手術後1年以内の死亡率が20％増加するとの研究もある。 　骨密度は、見た目の若々しさにも関わってくる。「顔のしわやたるみが気になるのは骨密度低下のサインかも」と矢吹さん。全身で最初に骨密度が低下して萎縮するのは顔の骨だという。骨がやせ、顔の皮膚や筋肉を支える靱帯（じんたい）がゆるむと、たるみやしわの原因になる。目がくぼんだり、頬がこけたりするのも骨密度低下によるものと考えられる。 　　　　＊　　＊ 　では、どうすれば骨密度を維持して、骨粗しょう症を防ぐことができるのか。 　まずは丈夫な骨作りに必要な栄養素を食事で取ろう。骨の主成分となり、形成を促すカルシウムは小魚や乳製品、緑黄色野菜に多く含まれる。ただ、体に吸収されにくいため、吸収を助けるビタミンD（魚類やキノコ類に多く含まれる）の摂取も重要だ。ビタミンKやマグネシウム、タンパク質などの栄養素も意識して取りたい。 　ビタミンDは、日光に当たることによって皮膚でも作られる。「直射日光を浴びなくても、日陰で30分ほど過ごすだけで効果がある」と矢吹さん。これからの時期は日照時間が短くなるので、意識して日光浴を心がけたい。 　運動も大切だ。骨は、刺激が与えられることで細胞が活性化して丈夫になる性質があるため、縄跳びやダンスなどジャンプ動作が含まれる運動が効果的だ。手軽にできるのは、つま先立ちになってかかとをストンと床に落とす「かかと落とし」。骨折につながる転倒を防ぐためには、筋力トレーニングやバランス運動も取り入れたい。 　骨密度の低下は自覚症状がないため、知らないうちに進行してしまう。矢吹さんは「早期発見できれば、薬物治療や生活習慣の見直しで悪化を防ぐことができる。まずは骨密度検査をして、自分の骨の状態を知ってほしい」と呼びかける。多くの自治体が40歳以上の女性を対象に骨粗しょう症検診を行っているほか、薬局や保健所などで簡単に骨密度の測定ができるところもある。