年金持続に向けて官民挙げて改革へ、財政検証 「人生100年時代」に備え
厚生労働省が3日公表した公的年金の財政検証結果では、高齢者や女性の就業が増えたことなどを背景に年金財政の持続性が高まったと評価が広がった。ただ、若い世代に広がる年金制度への不安感を和らげるには、支え手を増やす制度改革が欠かせない。企業も70歳までの定年延長など「人生100年時代」に備えた動きを急ピッチで進めており、官民を挙げた新たな制度設計が求められる。 【イラストで解説】モデル世帯が65歳で受給を開始するときの年金額は? 財政検証で最大の注目点は、年金の支給開始時に現役世代の手取り収入と比べどの程度の金額を受け取れるかを示す「所得代替率」だ。財政検証で試算した4パターンと足元の水準(61・2%)を比べると、いずれの結果も見劣りする。特に直近の経済成長に近い過去30年投影ケースでは現状より10ポイント以上も低下する。 年金制度を強固にしようと政府が取り組む施策の一つが、厚生年金の適用範囲を短時間労働者まで段階的に拡大することだ。今年10月には現行の101人以上の企業から51人以上に広げる。 厚労省は今回、要件を段階的に撤廃・緩和すれば加入者が増え、給付水準も上がる姿も示した。週10時間以上のすべての労働者にまで適用範囲を広げることで新たに860万人が厚生年金に加入すれば、過去30年投影ケースでは、所得代替率は56・3%に上がる。 元気なうちは働き、年金の受け取りを遅らせる方法も選択肢の一つだ。基礎年金の保険料を支払う期間を現行の40年から45年に延長すると、所得代替率は57・3%に上昇するという。 ただ、年金の支給開始年齢を延長するには、働く意欲のある高齢者の就業を推進する環境整備が必要だ。明治安田生命保険は現在65歳の定年を2027年度から70歳に延長する方針で、実現すれば、大手金融機関では初めて。政府の直近の調査では希望者に70歳までの就業機会を確保している企業は全体の3割にとどまり、こうした自助努力を促す取り組みを広げる必要がある。 役職定年や定年制を見直す企業を増やすため、政府は好事例をまとめ、公表する方針。6月に閣議決定した成長戦略「新しい資本主義実行計画」でも、「能力のある若手が不満に感じることがないように、いかにシニア層のスキルに応じた処遇を進めるかも情報提供してもらう」と明記した。
シニアの就労は人手不足の解消の側面もある。年金の持続可能性確保に向けた一連の制度改革は、労働力不足に直面する日本経済の成長にもつながる。(米沢文)