「超音波装置」で割高手術に誘導? 飼い主を誤解させる手術のPRフレーズ【ワンニャンのSOS】
【ワンニャンのSOS】#93 新しい治療法や薬、医療機器が開発されると、期待して新しい方をチョイスしたくなるかもしれません。ヒトもそうでしょうし、飼い主さんが愛犬や愛猫を託すときもそうでしょう。その気持ちは分からなくもありませんが、動物のケースについて注意すべきポイントを紹介します。 無教養キムタクまたも露呈…ラジオで「故・西田敏行さんは虹の橋を渡った」と発言し物議 「体に糸を残さず、時間を短縮して効率的に手術を行います」 動物病院のHPやパンフレットなどには、手術の安全性をアピールしてこんなことが書かれています。この技術を可能にした医療機器が、超音波凝固切開装置です。超音波熱による摩擦で血管の端を接着し、切開ができる装置で、縫合の糸を使わず、手術時間を大幅に短縮して安全性も高いので、この表現そのものはウソではありません。 しかし、ほかの表現が重なると、飼い主さんが誤解する可能性が高まるのです。その一文が、 「避妊や去勢をはじめすべての手術を超音波装置を使うことが可能ですからご相談ください」 というものです。医学的な知識のない飼い主さんが2つの文を読むと、すべての手術で縫合糸を使わなくて済むと思うかもしれません。そして、「安全な装置ならわが子の手術もこの装置で」という思いになると思いますが、手術によっては糸での縫合が必要ですし、そもそもすべての手術に必要な装置ではないのです。 最も有効なのは腫瘍や軟部組織の切除で、特に血液を貯留する脾臓や血管が密集する部位はこの装置がとても便利です。出血のリスクを抑えつつ手術ができますから。 しかし、開腹手術だと腹膜や被膜には体に吸収される糸を使い、皮膚では吸収されない糸を使うため、抜糸が必要です。前述の文章は、誤解しやすいでしょう。 ■一般的な避妊手術より割高に しかもこの装置を使うと、写真でピストルのような形の銃身の部分は使い捨てのため、その分が手術費に上乗せされます。これが高い。当院のタイプで6万円です。当院で小型犬の避妊手術は、この装置を使わない一般的な方法で5万~6万円ですから、一般的な避妊手術よりもかなり高額になるのは仕方ないでしょう。 この装置を使う避妊手術は、一般的な術式に比べるとかなり大がかりで私は必要性を感じていないので、そもそも避妊手術にこの装置を使いません。当院でこの装置を使用するのは、前述した腫瘍や脾臓の摘出が一つ。もう一つは、緊急性のある開腹手術のときに効率的な血管の分離などに用いるケースです。 こうした表現があちこちで見られるのは、割高な手術に誘導したい気持ちがひょっとするとあるのかもしれません。 (カーター動物病院・片岡重明院長)