火星のサンプルを「早く・安く」地球へ 民間に課された史上最も複雑な計画
110億ドルでは高い、2040年では遅い
■110億ドルでは高い、2040年では遅い パーサヴィアランスが採取したサンプルを地球に届ける計画「火星サンプルリターン」(MSR)が、NASAとESAによって承認されたのは2022年9月。同計画では以下の宇宙機の使用が予定された。 ●地球帰還オービター(ERO、ESA担当) ●サンプル回収着陸機(SRL) ●サンプル回収ヘリコプター(SRH、SRL搭載) ●火星上昇機(MAV、SRLに搭載) 火星に着陸する「サンプル回収着陸機」(SRL)は地表を移動できないが、その内部には「サンプル回収ヘリコプター」(SRH)を2機搭載。既存のプランでは、サンプルが入ったチューブはパーサヴィアランスがサンプル回収着陸機(SRL)に届けに来る予定だが、もしそれが不可能になった場合、この2機のヘリがチューブの回収に当たる。火星ヘリの有用性は、パーサヴィアランスとともに火星に送り込まれた「インジェニュイティ」によって実証済みだ。 また、サンプル回収着陸機(SRL)の内部には、小型ロケット「火星上昇機」(MAV)も格納されている。チューブはこのMAVに搭載され、地球の38%の重力にあらがって火星周回軌道上に打ち上げられる。その後、MAVは軌道上に待機する地球帰還オービター(ERO)とドッキングし、EROにチューブを渡す。 このチームに課されたミッションには、以下のスケジュールが用意された。これほど複雑な計画は過去に例がない。 ●2027年 地球帰還オービター(ERO)を打ち上げ。 2029年後半に火星の周回軌道に投入。 ●2028年 サンプル回収着陸機(SRL)を打ち上げ。 2030年に火星の表面に着陸。 チューブをパーサヴィアランスから受け取る。 チューブを火星上昇機(MAV)に格納。 ●2031年 火星上昇機(MAV)を火星地表から打ち上げ。 EROと火星軌道上でドッキングしてチューブを転載。 ●2033年後半 チューブを搭載したカプセルが地球に帰還。 しかし2024年4月15日、このプランでは最大110億ドルもの費用がかかり、サンプルリターンが2040年になることが判明したためNASA上層部が却下。すると翌16日、NASAの担当官は同プランよりコストがかからず、しかもスケジュールが短縮できる代替案を民間企業から募集すると発表した。そのわずか1カ月後の5月17日に募集は締め切られ、6月7日には7社を選定。これだけ大がかりな計画の基礎プランを、これだけの短期間で採択するのは異例だ。