また海と生活できる 隆起の輪島港、カニ漁開始
●10カ月ぶり、喜びと活気 ●重機、ベルトコンベヤーで水揚げ 岸ぎりぎりに横付けされ荷揚げする重機に、段差を乗り越えるためのベルトコンベヤー。かつての風景とは違ってしまったが、再び巡ってきたカニの季節に、港は喜びと活気があふれていた。8日、能登半島地震による海底隆起で甚大な被害を受けた輪島港で今季初めてズワイガニが水揚げされた。約10カ月に及んだ「空白期間」を経て、ようやく戻ってきた地震前の暮らし。漁師たちは「また海とともに生活できる」と安堵の表情を見せた。 【写真】今季初の出漁で水揚げされたズワイガニ=金沢港 地震以降、本格的な底引き網漁はこの日が初。午前0時に32隻が出漁し、正午頃から続々と帰港した。 輪島港は地震に伴い海底や岸壁が隆起し、船を接岸できなくなった。このため、新たに設けられた仮桟橋にいったんカニを降ろして重機でつり上げたり、ベルトコンベヤーを利用して船から岸に運んだりする作業が必要に。水揚げの時間をできる限り短縮しようと、輪島の各船は、雌のコウバコガニの漁獲量を前年の150箱から半分以下の60箱に制限された。 それでも、海から帰った漁師からは「漁場にカニがいて安心した」との声が上がった。 沖崎純一さん(63)は自宅が全壊し、一時、金沢市の近江町市場で働いて、漁をやめることも考えたという。しかし、市場の人に「早く海に出てほしい」「輪島の魚がないと寂しい」と声を掛けられて再起を決意。この日は、金沢市に避難中の長男(25)と2人で久しぶりに作業にあたった。「カニは結構いそうだ。この調子が続けばありがたい」と、久しぶりに味わう心地よい疲労に満足そうな顔を見せた。 港で家族を出迎えた人にも笑顔が広がった。夫と長男が沖に出た中村ひとみさん(49)は「不安が大きかったが、また漁で生活していける」と胸をなで下ろした。漁師の家系で、7月に亡くなった義父の利信さんは漁ができるようになるか、ずっと気にしていたという中村さん。「遺影に漁の再開を報告した。きっと喜んでいると思う」とほほ笑んだ。 輪島市小型底引き組合の沖崎勝敏会長は、ズワイガニだけでなく、カレイやバイ貝なども水揚げし「港が復旧すれば、もっと魚を捕ることができる」と期待。県漁協輪島支所の上濱敏彦統括参事は「ズワイガニ漁に間に合って良かった。輪島の漁業復興へ向けた大きな一歩だ」と力を込めた。