エシカルプロダクツ(熊本・水俣市) 無色透明の食用粒、アレンジ無限大 国内外に販路、健康志向取り込む【地元発・推しカンパニー】
熊本県水俣市中心部の「初恋通り」。地元出身のシンガー・ソングライター、故村下孝蔵さんの代表曲にちなんだ通りの小さなビルに、オフィスとラボ、食品加工所を置く。 昨年9月に設立した食品ベンチャーが手がけるのは、無色透明で味も香りもない「食用粒」だ。海藻由来の食物繊維を原料とした直径5ミリの粒は、シロップや果汁、しょうゆといった液体に丸1日漬け込むと、その味になる。 「用途を選ばず、アレンジは無限大です」と永井香織社長(48)。プチッとした食感から「プチル」と名づけた製品は、国内外の食品業界の注目を集める。 永井社長の両親が営む水俣市の有機農園「ミスターオレンジ」の一部門としてスタートした。かんきつ類の果汁で加工品を作るアイデアが持ち上がり、永井社長が2016年、プチルの前身の「みずたまご」を開発した。 液体をゼリー状の被膜で覆う調理技術を応用した製品で、果汁などに浸すと粒の被膜の細かな網目から内部に浸透する。18年に特許を取得。熊本や東京、大阪の展示会に出すと「何これ?」と人だかりができた。
19年、地方の優れた食を発掘する企画「にっぽんの宝物 JAPANグランプリ」で総合グランプリを獲得。「食品開発を通して社会に貢献したい」と、独立を決めた。 今年9月、食用粒の名称をプチルに統一した。需要の8割は業務用。国内の都市部やリゾート地のホテルで、カクテルやスイーツなどに使われているという。今年6月にはブラジル、フランスへ初めて輸出。北米やイスラム圏の販路開拓にも力を入れている。 強みの一つが、消費者の健康志向にアピールできることだ。プチルに味付けした商品「イクラちゃん」は、味はイクラそのものなのにプリン体やコレステロールを含まない。プチルに昆布だしやノリのエキス、しょうゆ、塩、食用色素を使った液を含ませ、見た目や味を再現した。 永井社長は「魚介アレルギーや健康診断の数値が気になる人も安心して口にできる」と熱く語る。 異業種との連携も視野に入れる。プチルを使った健康食品を大学ベンチャーと共同開発したり、研究用の菌の培地に使ったりできないかと思案している。「これからは『共創』の時代。他社の素材や技術との掛け算によって、新たな製品の可能性を探りたい。世界中の人がより良く生きていける社会の創造を目指す」と意欲は尽きない。(久保田尚之)
メモ 社名には、「人々の心身の健康に配慮したものを作り出したい」との思いを込めた。主力のプチルは110グラム739円。イクラちゃんはしょうゆ漬けと塩漬けの2種類で75グラム900円。いずれも業務用サイズがある。ほかに水俣特産の甘夏の花を使ったシロップ「草花蜜」(120ミリリットル、783円)も。現在は薬草茶などを開発中。従業員3人。