伝説のストリッパーの肉体から「シューッとこぼれんばかりに」…昭和の男たちの生きる源となった「聖なるしずく」の正体
1960年代ストリップの世界で頂点に君臨した女性がいた。やさしさと厳しさを兼ねそろえ、どこか不幸さを感じさせながらも昭和の男社会を狂気的に魅了した伝説のストリッパー、“一条さゆり”。しかし栄華を極めたあと、生活保護を受けるまでに落ちぶれることとなる。川口生まれの平凡な少女が送った波乱万丈な人生。その背後にはどんな時代の流れがあったのか 【マンガ】「だから童貞なんだよ」決死の覚悟の告白に女子高生が放った強烈な一言 「一条さゆり」という昭和が生んだ伝説の踊り子の生き様を記録した『踊る菩薩』(小倉孝保著)から、彼女の生涯と昭和の日本社会の“変化”を紐解いていく。 『踊る菩薩』連載第24回 『神秘的な「溢れ出る液体」…男の心を鷲掴みにする伝説の踊り子の「驚異的な秘芸」の“秘密”』より続く
「しずく」か炭酸水か
一条の「しずく」を「仕組んだ芸」と考える人はいる。ただ、実際に「しずく」を目撃した一色の感想は違う。長年、ストリップ業界で生きてきた彼は、嘘臭い芸もごまんと見てきた。劇場にペットボトルの炭酸水を用意させて、それを陰部に仕掛ける。それを舞台で流すと「しずく」に見えなくもない。 「私自身、踊り子のために、ちょっと高価な炭酸水を何ケースも買いました。それをアソコに仕掛けて、舞台で絞り出すなんてこともやっていました」 しかし、目の前に現れた一条の「しずく」はそんなまがい物ではなかった。 「穴のなかからシューッとこぼれんばかりに出てくる。回っている(舞台の)盆の上で、彼女は一心不乱です。気持ちが行くばかりで、自分の下半身がどういう形になっているかなんて、わかっていなかったと思います。 実際にあれを見ると、疑う余地はない。だから小沢(昭一)さんや駒田先生がこれに勝る芸はないと思った。いろんな声はやっかみから来たと思います」
聖なる「しずく」
総じて男たちは「しずく」を本物と信じ、女性は「まがい物」として軽く聞き流す傾向がある。一色が言うようにプロの女性のやっかみなのか、もしくは単純な男たちがだまされているのか。「しずく」の真相はどこまで行っても藪の中である。 私は一条の芸について、ノンフィクション作家の朝倉喬司と話をしたことがある。朝倉は90年代前半、釜ケ崎のアパートに暮らしながら、ヤクザを取材していた。 私も一時期、同じ暴力団を取材していた縁で、彼と2人で釜ケ崎を歩き、三角公園で一緒に酒を飲んだ。朝倉はこの街で一条とも飲んでいる。彼女の芸について、朝倉は私にこう語った。 「彼女のロウソクショーは喜びの表現です。ロウソクは彼女にとって男根なんだ。萎えることなく精液を垂らし続ける男性なんだ。彼女は人間離れした何か神のような存在と交わっていたんじゃないかな。彼女は人間を超えた何者かになろうとしていた。だから、男たちは何かありがたいものを拝むような気になったんです」 一条は同性の斎藤や桐に対する照れから、「しずく」を「仕組んだ」と語ったのではないか。私は一条の肉体から湧き出た泉だったと思っている。疲れた男たちにとり、その聖なる「しずく」は明日を生きる勇気の源になった。 『じつは、「順天堂の歯科医」...週刊誌に暴かれた「伝説の踊り子」の虚偽にまみれた「驚愕の過去」』へ続く
小倉 孝保(ノンフィクション作家)