【草彅剛主演の最新作公開!】「幸せになったことがないから、傷を持った人のことしか描けない」白石和彌監督が語る「映画の撮り方」
---------- アウトローの世界を描いた作品を得意とし、2013年には殺人事件を題材にした映画『凶悪』で数々の賞を受賞して以来、映画監督としての地位を確立していった白石和彌監督。その後、『日本で一番悪い奴ら』『孤狼の血』『凪待ち』『ひとよ』など話題作を次々と世に送り出してきた。最新作『碁盤斬り』は、ずっと時代劇を手がけたかったという白石の思いが叶った初時代劇作品だ。これまで歩んできた、波乱万丈な映画人生について聞いた(全4回の2回目)。 ---------- 【写真】主演・草彅剛が見せた「意外な姿」
「普通の人の考え方じゃない」
上京後、中村幻児監督の主催する『映像塾』に参加した白石監督。そこで講師として来ていた若松孝二監督に出会い、代々木にあった若松プロには毎日通うようになった。その頃、若松の一挙手一投足を見ていたという。 「映画の作り方はあまり教えてもらわなかったけど、世の中の見方や視座というか、『人がどうやって世の中を生きているのか』がよく理解できた。若松さんは、仕事中にポロッといろんなことを言ったり、ワイドショーを見ながらテレビに向かってずっと文句を言ったりするんだけど、その内容が変というか“独特”なんですよ。 たとえばある撮影現場は準備が追いついていなくて、兄弟子が住んでいるアパートの隣の部屋を借りて撮ることになったんです。実際に撮影が始まると、あれがない、これがないとなる。その都度、兄弟子は『こんなのあります』って自分の部屋から持ってくるんですね。その兄弟子の部屋は物が溢れていて、部屋の半分までは土足OKといってもいいくらい汚かった。その部屋を見た時に、若松さんが言った言葉が僕は忘れられない──。 『おまえ、こんな汚い部屋の家賃、払う必要ないだろ』って。おかしくないですか。汚したのは兄弟子なわけで。これはほんの一例で、普通の人の考え方じゃない。でも、これが作家たらしめてるんだな、こういう人が映画監督になるんだなって思ったら、俺は絶対に無理だと思いました」 若松監督に師事し、助監督として様々な作品に携わってきた。しかし、いわゆる下積み時代は食べていくのが精いっぱいだったとか。 「『凶悪』を撮った後でも映画監督の仕事はすぐにはきませんから、アルバイトをするしかない。ちょうど近所のスーパーの野菜の棚卸しのバイトのチラシが目に入ったので面接に行ったんですけど、落ちた(笑)。後日談ですが、テレビ東京の深夜ドラマの撮影中に見慣れない電話番号の電話に出たら『人が足りなくなったので明日来られますか? 』って、僕を落としたスーパーからでした。