高知で日本初の海洋深層水サミット 水産養殖や発電 産官学で可能性さぐる
水深200メートル以下の海域からとれる、ミネラル豊富な「海洋深層水」の利用促進に向けた日本初のサミットが10月17~19日、高知県室戸市で開催された。飲料、食品、化粧品など広範囲でブームとなった深層水だが、陸上養殖や発電などエネルギー分野での活用が進んでいる。サミットでは産学官の約80人が一堂に会し、さらなる大きな可能性を探った。 室戸市では、1989年に日本で初めて海洋深層水の取水施設が稼働した。サミットは、ちょうど35周年の節目にあたる今年に合わせ、地元の高知県が企画。海洋深層水利用学会の研究者、取水施設がある静岡県、富山県、沖縄県の担当者、深層水を活用した事業を行う民間企業が参加し、研究成果の発表やパネルディスカッションなどを行った。 深層水の取水施設は全国に19カ所あり、各取水地で民間による商品開発が盛んに行われてきた。1日に約5000立方メートルを取水する高知県でこれまで市場投入された商品は、飲み物、食品など1800点を超える。現在も300点以上の商品が販売されているが、同県によると、売上高はピークの150億円から80億円程度に減った。 ■臭みのないマス、あたらないカキ そうした中、新たに力を入れるのが、水産やエネルギーなど他分野への活用だ。会場では、河川環境の変化で激減した海藻「スジアオノリ」や地元の特産「サツキマス」の養殖に深層水を使い、成長を促進させたり、色みなどの付加価値を上げたりする高知県での研究成果が報告された。 深層水は、表層水と比べて菌の数が少ないことから、養殖された魚介類に臭みが出ないのも特徴。すし職人の経歴を持つ室戸市の地域おこし協力隊員・大岩佑子さんは、シンガポールで行われた日本食関連フェアに出場し、室戸深層水養殖のサツキマスをネタにすしを握って特別賞を受賞した。生魚独特の匂いが苦手な人が多い海外で好評を得たという。 沖縄県の久米島からは、オイスターバーを全国で展開する企業の担当者が深層水の清浄性を生かし、「あたらない」カキの陸上養殖に成功したことを発表。同島は2026年をめどに、深層水と表層水の温度差を利用した出力1メガワット級の海洋深層水発電(OTEC)設備の稼働も控えており、深層水の恩恵を生かした「久米島モデル」を子どもから大人までに啓蒙(けいもう)している。 パネルディスカッションで座長を務めた高橋正征・日本科学協会会長(東京大名誉教授)は、「世界的に漁獲高が減る中、欧米でも必要な魚介類を養殖しようとする動きがある。海洋深層水を使った技術研究を積極的に進めれば、世界に発信できる」と提言。また、エネルギー分野については、海洋温度差発電だけでなく、冷たい深層水をパックご飯の工場の冷却水に使うことで使用電力を約9割削減している富山県などの実績が知見になると指摘。それぞれの取水地で、新たな省エネ策に知恵を絞るべきだと述べた。 ■災害時に取水施設同士で連携を サミットは、深層水産業を持続的に発展させるため、災害などで取水ができなくなる施設があった際に相互補完し合う事業継続計画(BCP)体制の確立を目指すことなどを確認し、閉会した。 室戸市では、サミットの一環として、18日に地元の小学校で深層水について学ぶ出前授業が行われたほか、19日には、室戸漁港ふれあい公園で「室戸深層水フェスタ」があり、訪れた人が深層水を使ったパンや軽食の販売、深層水塩の詰め放題などを楽しんだ。 次回の深層水サミットは、久米島など複数地域での開催が検討されている。