戦争を“知る“ために必見 『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』の余韻をいつまでも
神社の祭の屋台で拓人が買ったチョコバナナを、拓人と田中さんが食べるシーンは、今年発表されたドラマの中でも屈指の美しさだった。「この街の戦争の象徴」である田中さんが、チョコバナナを「きれいやなあ」と言い、のちに「甘くて、やわらかくて、キラキラしてて、まるで夢を食べてるようでした」と話した。 このドラマは、拓人と田中さんの「心の中で起きたこと」を主軸に描かれており、説教臭さや啓蒙っぽさはない。けれど、映像のそこかしこにメッセージが込められている。それは、「知ること」「想像すること」、そして「自分の頭で考えること」の大切さではないだろうか。他者の痛みに対する想像力の欠如。突き詰めればこれは、まさしく「戦争」の根因なのではないかと筆者は考える。 自治会のメンバーが田中さんの陰口を言っていたのを耳にした拓人は、憤る。そんな態度をとるのは、田中さんの人となりも、田中さんの人生も知らないからだと、悔しがる。そして拓人は、「みんなに田中さんを知ってほしい」と、田中さんを語り部として招いた講演会を学校で開催する。田中さんは、全校生徒と地域の人たちの前で、自らの戦争体験を話すこととなった。 「名誉の戦死や、お国のためやて。そんなん間違うてる。人が死んでええわけない。そんなんおかしい」 「戦争のない平和な世の中が一番です。命の重さは、何ものにも変えられません。みなさんにはどうか、どうか、一人一人が強い意識を持って、未来へ向かって幸せに過ごしてほしいと、心から願います」 直截的な台詞が少ない本作において、田中さんがこれだけは力をこめて語った。自らも軍国少年として戦争に加担していたという自責の念と、心の中に閉じ込めていた思いを初めて言葉した田中さんは、きっかけをくれた拓人に感謝する。 「戦争反対」と口にするだけなら、誰にでもできる。しかし、本当に戦争を起こさないためには一人一人がどんな考えを持って、何をしたらいいのか。田中さんは言う。 「戦争が終わって一人になって、僕は自分の頭で考えて、自分が正しいと思うことをしようと決めました。人間としてどうふるまうのがいいのか、一生懸命考えました。それが、人として生まれてきた意味やと思うからです」 エンターテインメントにおける「大事なメッセージ」というのは、得てして直截的な台詞には乗っていない。作品を観終わって、いつまでも残る「余韻」の中にこそ潜んでいるのではないだろうか。このドラマを観た視聴者は、きっとこれからチョコバナナと蝉を見るたびに、戦争と、田中さんの生き様に思いを馳せることだろう。 本放送は22時からのOAだったが、このたびは土曜日の夕方から再放送される。ぜひ8月最後の日に、お子さんと一緒に観ていただき、「余韻」の中から何かを感じ取っていただければと、このドラマのいちファンとして、願っている。
佐野華英