肥満度を表す「BMI」は健康度を適切に測れない?米専門家の見解とは
肥満度を表す「ボディマス指数(Body Mass Index、BMI)は、体重と身長から割り出した数値に基づき、個人の健康リスクを推測するために使用されているもの。だが、それは必ずしも、すべての人のリスクを的確に評価しうるものではないという。BMIの何が問題だというのだろうか──? 【動画】「肥満」に近いけど…BMI数値があまり「役に立たない」と語る女子ラグビー選手 それは、BMIが性別や人種、筋肉量など、健康状態に影響を及ぼすその他の要因をまったく考慮に入れていないこと。ノースカロライナ州ダーラムにあるカタリスト・セラピューティック・サービス(Catalyst Therapeutic Services)のエリカ・テイラー医師(内科・精神科)は、「BMIで判断すれば、肥満、または過体重と判断されてしまうアスリートは大勢います」と話す。 例えば、女子ラグビーのアメリカ代表チームのメンバーとしてオリンピックに出場したイロナ・マーハ選手はTikTokに投稿した動画で、BMIは自分にとって「役に立たない」と述べている。 BMIの分類では「肥満」に近いとされるマーハ選手は、以前はそのことに恥ずかしさを感じていたそう。だが、現在は自分の体の状態に自信を持っており、あまり数値を気にしていないという。 つまり、BMIの数値に目標を定めて努力し、それを実現しても、実際に健康度を高めることにはならない可能性もあるということ。
BMIとは?
2023年に医学誌キュリアス(Cureus)に発表されたレビューの中でも説明されているとおり、「体重(kg)を身長(m)の2乗で割る」ことで算出されるBMIが、現在のような形で使用されるようになったのは1970年代初め以降。
信頼できない数値?
米国医師会(AMA)は2023年に、患者をBMIに基づいて「肥満」と判断することには「多くの懸念点がある」との見解を示している。患者の健康度を判断する際、BMIのみ(身長と体重というたった2つの要素)に頼ることは避けるべきだという。 また、テイラー医師は、健康度を判断するためにはその人のライフスタイル、健康の社会的決定要因(環境、人間関係、食料へのアクセス)に加え、遺伝的特徴も非常に重要だと話している。 いっぽう、NIHのウェブサイトには、「BMIの数値の上昇は、心疾患や高血圧、2型糖尿病、胆石、がんなどのリスクと関連している」との説明がある。だが、オンラインジャーナル「プロス ワン(PLoS One)」に2023年に発表された調査結果によると、アメリカの全死因死亡率は「過体重」に分類される人の間で最も低く、低体重、肥満はどちらも高くなっていた。このことからも、健康リスクをBMIだけで測ることはできないといえるだろう。 BMIについて重要なのは、この数値を割り出すための計算式が、「特定の人たちの中から抽出されたサンプル集団のみを対象に行った研究によって導き出されている」ということ。この研究の対象に、女性と有色人種はまったく含まれていない。テイラー医師によると、アメリカでは遺伝的、物理的、社会的要因によって、黒人、ラテン系、先住民の方が、BMIが高くなる可能性が高いことがわかっている。 2021年に医学誌ランセット(The Lancet)に発表されたイギリスでの研究結果でも、BMIと2型糖尿病の発症リスクの関連性には「人種による違いがある」と報告されている。 さらに、NYにある医療機関、「トリニティ・マディソン」が運営する女性専門医療サービス機関「ナークス」のメディカルディレクターでもあるナヴヤ・マイソー医師(婦人科・家庭医)は、体脂肪は男性よりも女性の方が多くなる傾向があることを指摘している。 こうした傾向があることには、理由がある。脂肪細胞から分泌されるホルモンのレプチンは、月経周期を適正に維持する役割を担っている。そのため、月経は体重が減りすぎると止まってしまう。だが、BMIはこの点も考慮していない。 テイラー医師とトンプソン博士はどちらも、BMIは健康度を判断するための「情報のひとつ」として見ておくのが最善の捉え方だとしている。医療従事者が、「一部の人にとっては、あまり役立たないもの」だと理解しておくことが重要だという。