【特許出願低調】未来念頭に意識改革を(11月15日)
県内からの特許出願件数は県知財戦略推進計画の目標値を下回り、年々減少している。中小企業の動きが特に鈍いと伝わる。知的財産の重要性は理解しつつも、経営環境が厳しいままでは新たな技術開発に資金や人材を割く余裕は生まれてこないのが現状ではないか。産業界の大転換を展望しつつ、小規模事業者を官民一体で総合的に支援する態勢構築が必要になる。 推進計画は本県の産業発展を支える知財の創造と活用促進を目指し、年度ごとの出願目標件数を定めている。特許は2021(令和3)年度258件(目標270件)、2022年度252件(同275件)、2023年度237件(同280件)で、3年間で21件減り、各年度とも目標に達していない。 知財取得を促すため、県は企業向けに手厚い支援事業を展開している。有識者の助言を受けて開発型企業へ転換を図る「ふくいろキラリプロジェクト」から10件(3月末現在)の新製品が誕生した。県内5カ所で開いた企業、自治体職員向けの「啓発・人材育成事業」には、60団体から合わせて約70人が参加した。こうした地道な取り組みにもかかわらず出願が増えない現状は、残念でならない。首都圏に隣接する本県は下請け業者の割合が高く、創造的企業の立地が乏しいとの指摘もある。「知財後進県」に陥らないよう、一歩踏み込んだ対策を講じるべきだ。
資材高騰の長期化が経営を圧迫し、人材確保と賃上げの要請に苦慮する中小企業は少なくない。現状維持に偏りがちな意識の変革に向け、県、市町村、日本弁理士会、金融機関など幅広い団体で組織する「ふくしま知財戦略協議会」の機能強化を求めたい。事業承継の際なども含め、脱炭素、情報革新などを踏まえた世界的な産業界の将来ビジョンを企業側に示す。業種別の再編予測も提示し、自社の進路を探ってもらう。こうした機会を端緒に、経営者は「経営改革は不可避」と腹落ちするのではないか。 特に重要なのは金融機関の役割だろう。金融庁は昨今、融資業務にとどまらず企業の成長を促す経営支援も求めていると聞く。最も身近な伴走者として、知財は成長の原資との認識を取引先に広めてほしい。(菅野龍太)