最後の国鉄特急形電車を追う 伯備線で381系がラストラン
【汐留鉄道倶楽部】2024年6月、全国で唯一残っていた国鉄特急形電車の定期運行が終わった。岡山―鳥取―島根を結ぶ特急「やくも」の381系で、多くのメディアが「ラストラン」と報じたように、事実上の引退といえる。しばらくは一部の編成が残って繁忙期に走るものの、完全引退は時間の問題とみて差し支えないだろう。 【写真】予想外に「復活」した列車2選
戦後十年ちょっとの時期に、クリーム色に赤帯をまとった明るい車体で鮮烈なデビューを飾った国鉄特急形電車が、最後の時を迎えようとしている。筆者は鉄道史に残る一大事を、東京に流れるニュースで見守るつもりだったが、連休を取れる幸運に恵まれたので、現地に行って381系の雄姿を目に焼き付けることにした。 出発前に下調べをしたところ、1日15往復あるやくものうち、381系は5往復に減っていた。車体カラーは3種類ある。カラーごとの運行本数は、白地に赤が印象的な最新の標準色「ゆったりやくも色」と、復刻版の「緑やくも色」が1・5往復ずつ、同じく復刻版でクリームと赤の「国鉄色」が2往復。ほかの10往復は新型の273系だ。 JR西日本と山陰観光連盟が公表した381系の運行予定を見て、山陰線から伯備線へ向かうコースを選んだ。羽田空港から飛行機で島根入りし、出雲空港にほど近い山陰線の沿線を訪れると、既に数名がカメラを構えていた。それほど有名な撮影地でもないし、平日にもかかわらず、筆者の後にも数名がやって来た。
いずれも狙いは381系だが、好みによって撮りたい列車が異なるのが面白い。筆者のような中高年は国鉄色に愛着があり、若年層は緑やくも色に慣れ親しんでいる。構図にしても、望遠系、広角系、画面いっぱいに車両を入れるか、風景の中に車両が入ってくるか、といった違いがあり、立ち位置も変わる。 一番人気の国鉄色が遠くに見えると、誰ともなく「来た、来た」と声を出したのを合図に緊張が走り、談笑でにぎやかだった山間の農村地帯が本来の静けさを取り戻した。数十秒後、いや十数秒後だろうか、国鉄色が通り過ぎると、会話が戻ったのもつかの間、半分以上の人が立ち去って別の撮影地へ向かった。筆者ら数名は緑やくも色まで撮影し、その後ほとんどが移動した。 翌日は宍道湖をバックにしたカットを狙い、さらに別の田園地帯にも行った。「自分しかいないだろう」と思って訪れた場所でも独りぼっちにはならなかった。どこへ行ってもカメラを持った人と出会い、381系の人気ぶりを実感した。