「ニトリvsファストリ」で明暗、世界一記録ストップで見えた「弱点」とは?
● マイナス要素を超圧縮! 独自のコスト削減力 利益の増減要因を決算資料(→下図)から、さらに具体的にみていきましょう。 利益が減少した要因として、まず売上が前期から252億円減りました。前期から決算月がずれた影響もありますが、店舗数と買上客数の推移(→下グラフ)をみると、店舗数が毎年100店舗ペースで右肩上がりに増えているのに対し、買上客数はほぼ横ばいです。 ここから、店舗数は拡大しているものの、販売数や売上の伸びが鈍化したことで、収益性が下がっている状況が読み取れます。 もう一つ、減益の大きな要因となったのが、円安による為替差損です。当期は、仕入で261億円、在庫で119億円の減益となりました。その背景には、ニトリの生産販売体制があります。先ほどの店舗数のグラフをみると、1001店舗のうち83%は国内で、海外は17%しかありません。また、地区別の売上構成比(→下グラフ)をみても、国内79.1%、海外4.8%と、圧倒的に国内販売のシェアが高いことがわかります。 一方で、ニトリの商品の約90%は、中国やベトナムなどアジア諸国を中心とした海外から調達しています。こうした理由から、対ドルで1円円安が進むと、年約20億円の減益要因が発生する構造となっており、当期は歴史的な円安となったことから380億円もの減益が発生しました。 売上減と合わせて前期から632億円の減益要因ですが、ニトリはこれを貿易費用と原価を削減して挽回。同社は、原材料調達から販売までを一貫して自社で行うSPAモデルを徹底しており、様々な家具の原材料やサプライヤーを統一することで原価を低減しています。さらに社内の「貿易改革室」が輸出入に関する業務を全て任うことで、大幅な費用削減を実現。632億円の減益要因を、最終的に117億円まで圧縮できたのは、生産・物流改革の賜物といえるでしょう。
● ニトリvsファストリ 明暗分けた戦略 ニトリに限らず、当期決算では多くの企業が円安による好悪の影響を受けました。グローバル化が進んだ現代では、国内外における生産・流通・販売網の違いが、為替変動による影響の大小に直結してきます。 参考例に、ニトリと同じ小売業であるファーストリテイリングの業績をみてみましょう。 直近3年の損益状況をみると、21年から23年にかけて売上は6336億円(29.7%)増加。営業利益は1321億円(53.0%)増と、円安下にもかかわらず大幅に収益が増えています(→下表)。 最新の上半期決算(23年9月~24年2月分)では、さらに勢いが増しており、21年の最終利益を半年で上回っています。 また、21年から直近にかけて、売上原価率は2.6ポイント減。反対に、営業利益率は4.4ポイント増と、運動量だけでなく運動効率(利益率)も向上しているのがわかります。 この最大の要因は、売上における海外比率の差にあると考えられます。ユニクロの店舗は、国内が800店舗に対し、海外は1634店舗(うち、中国・香港・台湾が1031店舗)と2倍以上(→下グラフ)。 また、売上の5割、営業利益の6割を海外事業が占めており、その比重は年を追うごとに大きくなっています。少子高齢化で停滞する国内市場に対して、成長している海外市場でビジネスを拡大できているか否かが、ニトリとの明暗を分けています。 商品の約9割をアジア諸国で生産している点において、両社は同じです。しかし、販売の重点を海外に置くか、国内に置くかで、為替変動による影響が大きく異なることがわかります。 《『決算書「分析」超入門2025』では、ニトリのバランスシート、キャッシュ・フロー計算書、株価の変動についても詳しく分析しています》
佐伯良隆