王者・駒沢を脅かすのはこの大学だ…!【箱根駅伝】直前完全ガイド「山の神」に名を刻む選手の名前
2年連続の「学生駅伝3冠」を目指す絶対王者・駒澤大(以下、駒大)の勢いが止まらない。 【写真をみる】新「山の神」争いがアツい…!第100回大会に名を刻む注目選手たち(写真9枚) 10月の出雲駅伝は1区で篠原倖太朗(3年)が飛び出すと、続く佐藤圭汰(2年)が区間賞。2区で後続を39秒も引き離し、最終6区は主将・鈴木芽吹(めぶき)(4年)が2年連続の区間賞で締めくくった。 11月の全日本大学駅伝は2区の佐藤が区間記録を11秒更新し、3区の篠原も日本人トップの快走。2位に3分34秒もの大差をつけて、悠々と4連覇を果たした。 「全日本は満点に近い。次は箱根を全力で取りにいきたい」と今季から指揮を執る藤田敦史監督(47)も3冠に燃える。 一方、駒大を意識して全日本でエース級を前半区間に並べた中央大(以下、中大)は不発に終わった。3区の吉居大和(4年)がまさかの失速。絶対エースで首位に立つという作戦が失敗に終わり、4位に沈んだのだ。 箱根駅伝も駒大がダントツのV候補だ。選手層は厚く、前回5区の山川拓馬(2年)が区間4位、6区の伊藤蒼唯(あおい)(2年)が同1位。山の不安もない。篠原、佐藤、鈴木の3人のエースが速すぎる。とくに出雲と全日本は佐藤の圧倒的なスピードが勝負を決めた印象だった。 11月25日の八王子ロングディスタンス1万mでも、駒大の3本柱が火を吹いた。佐藤が日本人学生歴代2位の27分28秒50(U20日本新記録)、鈴木が同3位の27分30秒69、篠原が同5位の27分38秒66を叩き出しているのだ。 前回の箱根で駒大とトップ争いを演じた中大のダブルエースも同レースに参戦していたが、結果は吉居大和が28分01秒02、中野翔太(4年)が28分25秒70。タイムだけを見れば″惨敗″だった。 しかし、この差が正月決戦では″大逆転″を生むかもしれない。なぜなら冬の1万mで27分台をマークした選手が箱根駅伝を快走した例は稀だからだ。 かつて、順天堂大(以下、順大)・塩尻和也(27、現・富士通)は3年時に1万mで27分47秒87をマークするも、箱根では2区を走って区間10位。翌冬は1万mは走らず箱根に集中して、2区を1時間06分45秒の日本人最高記録(当時)で走破している。今回、タイムを貪欲に狙いにいった駒大に対して、中大は「ハーフマラソンの中間走のイメージ」で冬の1万mに出場している。 駒大は序盤区間でトップに立って、悠々とレースを進めるのが勝ちパターン。その王者のわずかな不安要素が、攻略が難しくて差がつきやすい2区の経験者がいないことと、佐藤に公式戦で20㎞以上を走った経験がないことだろう。追いかける展開になったとき、どこまで実力を発揮できるのかが、未知数なのだ。 駒大は順当なら2区鈴木、3区佐藤というオーダーが濃厚。篠原は1区もしくは4区に入ると予想される。ライバル校は佐藤が出てくる前に″大量リード″を奪ってプレッシャーをかけたいところ。その実現を狙うのが前回2位の中大だ。 「全日本は駒大の選手にウチの背中を見せたいと思っていました。それは叶いませんでしたが、箱根でも同じような駅伝をするつもりです。佐藤君も箱根の距離になると、全日本ほどの強さは出せないんじゃないでしょうか。勝機はあると考えています」(藤原正和・駅伝監督) 中大は前回の箱根で、吉居が2区を区間歴代8位の1時間06分22秒で走破してトップに立つと、3区中野も連続区間賞。今季は大和の弟、吉居駿恭(しゅんすけ)(2年)が5000mで日本人学生歴代6位の13分22秒01、中野が同10位の13分24秒11をマークしている。今回は1区吉居駿、2区吉居大、3区中野という攻撃的なオーダーが有力で、4区には全日本7区で駒大・鈴木を上回った主将・湯浅仁(4年)の起用も考えられる。全日本で不振だったエース吉居大は「箱根では自分のところでトップに立ちたい」とリベンジに燃えている。駒大の3本柱を撃破できれば、28年ぶりの総合Vが見えてくるだろう。 前回4位の國學院大も伊地知賢造(4年)、平林清澄(きよと)、山本歩夢(ともに3年)の3本柱が強力だ。とくに平林は前回も2区を好走しており、全日本は各校のエースが集結した7区で区間賞。駒大より2区で前に出る可能性がある。 全日本2位の青山学院大(以下、青学大)は2区終了時にトップ争いできていると面白い。 第100回大会は絶対王者・駒大が誇る3人のエースが入る区間の″マッチアップ″が勝負の行方を左右するだろう。勝利の女神が微笑むのは、どの大学か。 ◆第4代「山の神」は誕生するのか 今回の箱根にはまだまだ注目選手がいる。たとえば「山の神になりたい」と力強く宣言している創価大の吉田響(3年)だ。2年生まで東海大に在籍、1年時に5区を走り、区間2位と将来を期待されたが、強化方針になじめずに退学。今春、創価大に編入した異例の経歴の持ち主だ。8年連続で箱根を取材するスポーツライターの杉園昌之氏が明かす。 「東海大では心身ともに苦しみ陸上をやめる、というところまで追い詰められたようですが、今は充実している。報道陣と話すときはいつも笑顔ですから」 創価大生として初めて出場した出雲、全日本ではともに区間賞を獲得した。 前回5区で従来の区間記録を21秒更新して区間賞に輝いた城西大・山本唯翔(ゆいと)(4年)も「山の神」襲名に燃える。前回は13位でタスキを受けるとチームをシード権内の9位まで浮上させたが「山の妖精」と呼ばれるにとどまった。ライターの藤井みさ氏が解説する。 「練習で白いキャップをかぶる山本選手が、上り坂を軽やかに走る姿が妖精のように見えたことが命名のきっかけです」 「山の神」は順大OB今井正人(39)、東洋大OB柏原竜二(34)、青学大OBの神野大地(30)のみ。早稲田大で4年連続5区を走った金哲彦氏が言う。 「チームが上位に入らないと『山の神』とは呼ばれないんですよ」 吉田や山本が「山の神」と呼ばれるためには、自らの走りで強豪校を逆転してトップグループに食い込むしかない。 8月の世界陸上3000m障害で6位入賞の順大・三浦龍司(4年)、父親も箱根を3回走った青学大・黒田朝日(2年)、箱根の予選会で日本人トップの東京農業大ルーキー前田和摩たちも箱根路を熱くしてくれるに違いない。 『FRIDAY』2023年12月29日号より 取材・文:酒井政人(スポーツライター)
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