ドンキを「格好いい店」にするなよ 安田会長の言葉に社長は「?」
ドンキでは、管理はしない
では、権限委譲されているドンキの商売は、他の小売企業と本質的に何が違うのか? まず、お客さまに見えるところで申し上げると、各店舗によって売っている商品も値段も違う、ということ……だと書こうとしたのですが、もう少し正確に説明するとこうなります。 「その店に来店されるお客さまに合わせて、それぞれの店が、それぞれの社員が、自らの権限と判断において運営をしているため、売っている商品も、価格も、店づくりもおのずとそれぞれ異なってしまっている」 ということです。 さて、日本の小売業界に大きな影響を与えた理論に、故・渥美俊一氏の「チェーンストア理論」があります。チェーンストア理論とは、超意訳すると「本部に権限を集中させて、大量に商品を仕入れて大量に安く売る」ということ。そのため、本部が一括して商品を仕入れるのが基本です。 時代が高度成長時代を迎えたとき、まず消費者が小売業に求めたのは、みんなと同じものを、より安く、だったと思いますから、まさに時代に合った姿だったでしょう。また、当時はメーカーの決めた「標準小売価格」に縛られ、小売業には経営の自由権が制限されていたような時代背景もあったと聞いています。 ドンキの1号店がオープンしたのは、そういう時代がすっかり変わった1989年のことなので、そもそもドンキにはチェーンストアの発想がありません。 僕が入社してから、一番たくさん受けると言ってもいい質問が「あんなに大量の商品をどうやって管理しているんですか?」です。会う人、ほぼ全員に聞かれたかもしれません。正直言うと、一番困る質問でもあります。苦笑っぽい感じでしょうか。 なぜかというと、「ドンキでは、管理はしない」というのがその答えだからです。 「管理」というのは、チェーンストア的な発想だと思います。しかし、僕たちドンキでは、何か本部とかエライ人が管理する……とかではなく、担当者が必死に棚を確保した商品ですから、各人が責任を持って在庫を管理する、従って、会社としては管理しない……というのが正解なんですね。大量の商品(小規模の店で5万アイテム、大規模な店で10万アイテムというイメージでしょうか)を少数の人が管理するチェーンストアを前提に質問を受けると、この答えはなかなか納得されないんじゃないかと思います。 その代わり、当社では管理はしませんが、厳しい評価はあります。会計上の在庫の期限は1年と定められていますが、当社では、6カ月を超える在庫は「不稼働在庫」、そして、3カ月を超える在庫は「興味期限切れ」、という評価をされるので、管理はしなくても、売れなくてもいい、ということにはならない、ということです。
吉田 直樹