<高校野球>センバツ32校の今 グラウンドに球音なく 練習手探り 進路に不安も
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、大会史上初めて中止になった第92回選抜高校野球大会。大会後に予定されていた春季大会はほぼ中止となり、緊急事態宣言が全国に広がった現在も日本高校野球連盟に加盟する各校で活動自粛が相次いでいる。センバツ開幕予定だった3月19日から1カ月。出場32校の今を追った。【高校野球取材班】 大分県が17日から5月6日までの県立学校休校を発表した16日。センバツに23年ぶり出場の大分商は、休校前の最後の練習を行った。選手たちを前に渡辺正雄監督(47)は「全国的に感染が広がっており休校は仕方ない。もっと苦しむ人たちがいる。気持ちを切らさないようにしてほしい」と呼びかけた。 7日に東京、大阪など7都府県に緊急事態宣言が発令されたことで、昨夏の甲子園で優勝した履正社(大阪)や大阪桐蔭が活動を中止。宣言が全国に拡大されて以降も21世紀枠の磐城(福島)が17日からの練習を休止するなど活動自粛が相次ぐ。18日現在、センバツ出場32校のうち22校がグラウンドでの練習を取りやめている。 ◇「LINE」で選手の状況把握 センバツ中止決定翌日の3月12日から全体練習を中止している県岐阜商では、鍛治舎巧監督(68)が無料通信アプリ「LINE(ライン)」を使い、自主練習する選手の状況把握や感染への注意喚起を行っている。明石商(兵庫)でも選手にLINEを通じて自宅でできるトレーニング動画を送り、活動中止中の筋力強化を「宿題」に掲げる。狭間善徳監督(55)は頻繁に電話で体調管理を問うことも欠かさず、「生活のリズムが乱れないように」と気を配る。 一方で感染防止を徹底し、グラウンドでの短時間・少人数の「自主練習」を続けるチームもある。天理(奈良)は「自宅より寮の方が安全」という保護者の意見などを踏まえ、全選手が寮生活を維持。外部の立ち入り禁止や、向かい合って食事をしないなど感染予防に重きを置く。明豊(大分)ではグラウンドに入る選手を20人に絞り、残りは寮で待機するなど「密集」を避ける対策を講じている。 ◇実戦から離れ「気持ち下がる」 センバツに続いて、開催予定の青森を除く各都道府県では春季大会が中止された。無観客で開催した沖縄も準決勝を前に中止が決まり、ほぼ全ての学校が練習試合など実戦から離れている。桐生第一(群馬)の今泉壮介監督(40)は「センバツ中止から少しずつ選手たちの気持ちが切り替わってきたところで、練習試合も春季大会もなくなり、気持ちがまた下がってきた」と明かす。履正社の岡田龍生監督(58)は「練習ができず、冬場に鍛えたトレーニングの成果がリセットされてしまう。活動再開時にどこまで動ける体になるのか」と不安を口にする。新学期が始まらず、新入生が入部できない学校もある。 ◇「我慢して力にできるか、問われている」 難しい状況の中で、指導者たちが口をそろえるのが3年生の進路への不安だ。公式戦も含めて試合が行えず、大学や社会人の指導者、プロのスカウトらに選手を見せる場が失われているためだ。例年この時期は大学の練習に選手を参加させるケースも多いが、大学の休校に伴って実現できず、各校とも大学の指導者らに電話で選手の情報を伝えている状況だ。天理の中村良二監督(51)は「選手の映像を撮影し、大学に送ることも考えている」と話す。 長期化する感染拡大の影響に「心の耐力(たいりょく)」をチームのテーマに掲げる東海大相模(神奈川)の門馬敬治監督(50)は、「我慢して力に変えていくということが今、問われている」と説く。必ずや球音が戻ってくると信じ、球児たちは耐え忍んでいる。