「出世欲」と「幸福感」のバランス崩壊、満たされないエリートたちは平安時代もゴロゴロいた【NHK大河『光る君へ』#18】
紫式部を中心に平安の女たち、平安の男たちを描いた、大河ドラマ『光る君へ』の第18話が5月5日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。 【画像】NHK大河『光る君へ』#18
「家」のための「政」では、誰も幸せになれていない
本作の第13話で、兼家(段田安則)は「栄光も誉れも死ぬが家は生き続けるのだ」「家のためになすこと それがわしの政である」と、自らの思いを道長(柄本佑)に伝えていました。 兼家の亡きあと、道隆(井浦 新)は父の思いを受け継ぎ、家のための政に心を注ぎます。彼が父の信念を受け継いでいることは「貴子も 伊周も 隆家も...支えてやってくれ」「酷なことはしないでくれ」「我が家を頼む...」と、道兼(玉置玲央)に懇願する第17話のシーンにも見てとれます。道隆のプライドを捨てた、必死の懇願に心打たれた視聴者も多いはず。 またこの回では、道隆は息子・伊周(三浦翔平)が関白の地位を得ることを望むあまり正気を失います。威風堂々としていた道隆が「伊周を関白に...」と一条天皇に迫り、周囲から止められるシーンは胸が痛みました。 兼家も道隆も守りたいものは家であるわけですが、彼らが争っている相手とは血縁者です。この激しい争いのため、対立する派の親族からは自分はうらまれている、にくまれているという被害妄想におそわれます。 トップの座を手に入れた人は幸せになるケースよりも、不幸に陥っているケースの方が多いことを数々の古典が証明しています。ウィリアム・シェイクスピアの『マクベス』では、マクベスは王座を手にしてすぐに正気と眠りを失っています。周囲に行ってきたことへの自責の念に苦しめられ、この座をねらう人から引き下ろされるのではないかと不安に襲われるためです。 第17話では、道隆は自身の体調不良の原因を呪詛ではないかと疑っていました。安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)から「どなたか お心当たりでもございますか?」と聞かれると、「心当たりは あり過ぎる」と返答し、道兼、詮子(吉田 羊)、道長の名前を挙げています。 兼家のような政を執り行えば、自分の派閥は栄え、家は生き続けるかもしれません。しかし、家が生き続けることと、自分を含めた家族の幸せは別の話。家が存続したとしてもその中で暮らす人たちがにくしみ、自分を押さえている状態は幸せとはいえないでしょう。