4人に1人が自認する「弱者男性」の生きづらさ 事件の被害者でも「50代男性」が“かわいそう”と思われない決定的な理由
政府の2018年の統計データによれば、日本人の6人に1人が世帯年収127万円以下の貧困状態にある。また、100人に1人の日本人は、1日210円未満で暮らしている。そうした貧困の問題に加え、独身、障がいといった「弱者になる要素」を備えた男性たちのことを、「弱者男性」と呼ぶのだという。 (前後編の前編/後編に続く)
約26.2%の男性が自分を弱者だと認識
では、「弱者男性」という言葉を聞いて、どんな印象を抱くだろうか。 貧乏、ブサイク、モテない、卑屈、粘着質、不潔…… 『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)の著者、トイアンナ氏は男性の弱者性を、引きこもり、貧困、障がい者、介護者、コミュニケーション弱者など、16タイプに分類。500人の男性を対象にアンケート調査を実施した。 すると、実に約26.2%の男性が自分を弱者だと認識しており、日本の人口に当てはめると約1,600万人が該当することがわかった。これは、事前に16タイプを基に統計学の専門家に依頼した調査結果とほぼ一致したそうだ。 トイ氏がさらに指摘するのは、そうした「弱者男性」と呼ばれる男性に、実際には社会において「弱者」と認定してもらえない“生きづらさ”が存在することだ。 ※次ページからは、『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)より、一部を抜粋/編集してお伝えする。
女性・子どもという「理想的弱者」の存在
男性はなぜ「弱者」と認めてもらえないのだろうか。それは、男性以外で既に「弱者」と呼べる対象が存在することも一因だろう。 皆さんは「理想的な被害者」という言葉があるのをご存じだろうか。1980年代、ノルウェーの社会学者であるNils Christieが提唱した言葉である。人は犯罪の被害に遭った方を平等に扱うことができず、特定の被害者のみを「まっとうな被害者」に感じるという考え方だ。 「理想的な被害者」像のリストは次の通りである。 (1)被害者が脆弱であること (2)被害者が尊敬に値する行いをしていること (3)被害者が非難されるような場所にいなかったこと (4)加害者が大柄で邪悪であること (5)加害者とは知り合いでないこと (6)自らの苦境を広く知らせるだけの影響力を有すること (出典)Nils Christie (1986) “The ideal victim”, in E. Fattah (ed.) From Crime Policy toVictim Policy, Macmillan, pp.19-21 論文では、事例として〈A〉と〈B〉では、〈A〉のほうが理想的な被害者として扱われると述べている。 〈A〉 •偶然被害に遭った •知らない人が加害者だった •か弱い •女性 〈B〉 •酒場のように犯罪リスクのある場所で •知り合いが加害者だった •健康な •男性 たとえば、道端で札束を見せびらかしている人間が強盗に遭ったとしても、コツコツとタンス預金をしていた人間が強盗に遭ったとしても、同じ強盗罪であることに変わりはない。だが、前者の場合には「そうなって当然」といった、被害者をバッシングする動きやSNS投稿が生まれるであろう。 札束は相手に見せびらかすか見えないように隠すかを選べるが、自らの意志で選ぶことができないのが性別である。女性は女性であるだけで、さまざまな要因から弱者性を帯びる。 たとえば、力で男性に勝てる女性はごく一部だ。昨今では変わりつつあるものの、平均年収は男性よりも低いケースが見受けられる。そして妊娠や出産を経験することで、キャリアにおけるハンディを負いやすい一面もある。総じて肉体的、経済的においてある種、わかりやすい弱者性を持っているのが女性なのだ。 対して、男性の弱者性はわかりづらい。家庭の事情、貧困、健康状態など、ありとあらゆる理由で男性も弱者側に置かれ得るにもかかわらず、基本的には「ぱっと見」で男性であれば、それだけで弱いとは思われづらい。もし弱そうに見えたとしても、「嫌悪感」を持たれはするものの「守ろう」とはされにくい。結果として男性は弱者と認めてもらいにくいのである。