新国立劇場バレエ2024/2025シーズンは『眠れる森の美女』で開幕。初演から10年の熟成の舞台に注目
新国立劇場が3年ぶりに古典の大作『眠れる森の美女』を上演する。2024/2025シーズンの幕開けに相応しいゴージャスで見どころにあふれた舞台は、古典バレエの魅力、楽しさをあらためて体感させてくれるものになるはず。 【全ての画像】新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』舞台写真ほか シャルル・ペローの童話に基づき、マリウス・プティパが振付けた『眠れる森の美女』。1890年にサンクトペテルブルクで初演、『白鳥の湖』、『くるみ割り人形』とともにチャイコフスキー三大バレエのひとつに数えられる古典バレエの傑作だ。絶対王政へのオマージュがこめられた絢爛豪華な空間で展開されるのは、おなじみのおとぎ話。ヒロインは、悪の精カラボスの呪いで長い眠りにつくオーロラ姫。彼女を守る善の精リラの導きで森の奥へとやってきたデジレ王子の彼の口づけで、オーロラ姫は百年の眠りから目覚め──。そんな主要人物の活躍だけでなく、祝いの場にやってくる妖精たちや童話のキャラクター、華やかな群舞などが次々と登場、チャイコフスキーのキャッチーで美しい音楽と次から次へと繰り広げられる多彩な踊りに、いったいどれほど多くの観客がワクワクさせられてきただろう。 新国立劇場が開場記念公演として『眠れる森の美女』を上演したのは、1997年10月。新国立劇場の現舞踊芸術監督で、当時英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルだった吉田都を含む豪華ゲストを迎えた華々しい舞台をもって、新たな劇場、新たなカンパニーの誕生を強く印象づけた。このロシアのヴァージョンにかわる『眠れる森の美女』として2014年、大原永子前芸術監督のもとで誕生したのが、このウエイン・イーグリングによるオリジナルの『眠れる森の美女』だ。カナダ出身のイーグリングは、英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルとして活躍、のちにイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)の芸術監督を務めた振付家。彼が手がけた新たなヴァージョンは、プティパの流れをくむ伝統的な振付を尊重しつつ、随所に新鮮な魅力が光る作品として話題に。とくに、トウシューズを履いて踊るカラボスの大活躍や、第2幕の終盤、王子の口づけで目覚めたオーロラ姫と王子とのロマンティックなパ・ド・ドゥは、本作ならではの大きな見どころ。もちろん、主役ダンサーの技と表現力がめいっぱい発揮される第1幕のオーロラ姫の「ローズ・アダージオ」、終幕のグラン・パ・ド・ドゥも、瞬きするのも惜しいくらいの名場面だ。トゥール・ヴァン・シャイクによる洗練された色彩豊かな衣裳、川口直次による格調高く豪華絢爛な美術も、上質な古典バレエの舞台でしか体験できない、重厚で奥行きある世界を生み出し、観客を魅了する。 2014年の初演ののち、たびたび上演を重ねてきたイーグリング版『眠れる森の美女』。直近の上演は2021年2月、コロナ禍の不安の中での4公演の実施だったが、今回は全12公演。オーロラ姫を演じるのは、ゲストの佐々晴香(ベルリン国立バレエ プリンシパル)に、小野絢子、木村優里、柴山紗帆、池田理沙子、廣川みくり。デジレ王子役には、井澤駿、奥村康祐、速水渉悟、福岡雄大、渡邊峻郁の5人のダンサーが名を連ねる。このうち柴山、廣川、速水は初役、フレッシュな演技が期待される。さらに、『眠れる森の美女』は数々のダンサーがソリストとして活躍するのも大きな見どころに。初演から10年。ゆるやかに世代交替を重ねながら、この作品を熟成させてきた新国立劇場バレエ団の、層の厚さ、多彩な個性が前面に出る充実の舞台が期待される。10月25日(金)の開幕が、待ち遠しい。 文:加藤智子 <公演情報> 新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』 振付:ウエイン・イーグリング(マリウス・プティパ原振付による) 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー 編曲:ギャヴィン・サザーランド 美術:川口直次 衣裳:トゥール・ヴァン・シャイク 照明:沢田祐二 芸術監督:吉田都 指揮:ギャヴィン・サザーランド/冨田実里 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団 出演:新国立劇場バレエ団 2024年10月25日(金)~11月4日(月・休) 会場:東京・新国立劇場 オペラパレス