なぜ自動車メーカーはこぞって「型式認証不正」に手を染めたのか、制度改革のチャンスを逃し続けてきたツケ
■ 「あくまで個社の問題」と逃げ続けてきた このような杓子定規極まりない実態から、型式指定の制度自体がおかしいという見方も一部にはある。が、それは断じて違う。先に述べたように型式指定は大量生産品が必ず一定以上の安全性、環境基準を満たしていることを担保する、世の中をより良いものにするのに欠かせない制度だ。 問題はその制度の中身が現実にマッチしているかどうかである。 認証制度は世界各国で異なる。例えば、欧州ではガードレールのない道の路肩にポプラなどの並木が整備されているような環境が多いため、クルマの側面をポールと衝突させる試験がことのほか厳しい。アメリカの後突試験のシャトルが1800kgなのも、それだけ大型で重いクルマが多いからだ。 自動車は今やグローバル産業だが、どのメーカーも仕向け地ごとに認証を取る作業が雪だるま式に増えているのに頭を悩ませている。そのことは日本政府も一応課題として認識しており、認証の世界共通項を増やしていく働きかけを行っているが、国同士の主導権争いなどもあって今のところうまくいっているとは言い難い。 手っ取り早いのは、日本の認証制度の基準を変えていくことである。後突試験であればミニマム1100kgだが、それより大きなものを使用する場合、質量を明記すればその試験の数値を公的なものとして認める等々、フレキシビリティーを持たせるのだ。 本来、自動車業界は行政に対し、そういう強力な働きかけをとっくに行っていなければならなかった。が、燃費・排出ガス測定問題、完成検査問題、型式指定問題と問題が出るたびに、業界団体である日本自動車工業会はずっと「あくまで個社の問題」と言って逃げ続けてきた。 三菱自動車などの燃費不正が発覚した2016年、遅くとも完成検査不正問題の全容が明らかになった2018年に自動車メーカーが自工会を窓口として型式指定制度の改革を提言していたら、今日の状況は少し違うものになっていたかもしれない。改革の機会を6年ないし8年みすみす失ったことは、自動車業界が猛省すべき点であろう。 豊田章男・トヨタ会長は会見で認証制度を守ることは大前提としつつ、「自工会を通じて意見を出し、日本の自動車業界がより競争力を発揮できるようなやり方を当局(国交省)と作るチャンス」と改革を訴えた。 トヨタまでが潔白でなくなったことでようやく型式指定を個社ではなく業界全体の問題と捉えるようになったというのは遅きに失するという感もある。しかし、幸いにして今回のスキャンダルは内容的に傷が浅い。これをもって日本の自動車産業のアップデートのきっかけにすることができれば、災い転じて福となすというものだろう。
井元 康一郎