なぜ自動車メーカーはこぞって「型式認証不正」に手を染めたのか、制度改革のチャンスを逃し続けてきたツケ
■ 日本よりも厳しい海外の基準で追突試験をしていた事案も 常に高水準の安全性や環境負荷低減が求められる自動車メーカーは、おおむね生真面目で法令遵守精神も高い。にもかかわらず、不正が後を絶たないのはなぜか。 型式指定とは道路運送車両法という法律で定められたもので、安全性や環境負荷が保たれるという“お墨付き”である。開発段階で数々のテストを実施し、保安基準を満たしたものをそっくりそのまま大量生産し、出荷前に車検に相当する完成検査をパスしているのだから、ディーラーでナンバーをつけてもらうだけで走行していいというシステムだ。 もちろんクルマといっても大きさ、形状、用途、エネルギー源など多種多様。そのため法律だけでは到底すべてを網羅できないため、監督官庁である国交省が定めた省令、またそれを補う「付則」と呼ばれる数多くのルールが設けられている。 実はそのルールがくせ者で、読んだだけで中身が明々白々なものばかりでなく「この場合は許されるのか?」と解釈に迷いが出るものも少なくない。 例えば、2017年に型式指定問題の一種である完成検査不正が露見したスバル。無資格のスタッフが検査をしたということで処分された。 そのスタッフは国の完成検査員の試験には合格していた。スバルは伝統的に職人意識が強いため、試験に合格しても完成検査員の資格を与えず、独力で完成検査を完遂させた後に資格を与えていた。それが引っかかったのである。スバルは当初、試験には合格しているのだから法令違反ではないと考えていた。先に日産で完成検査不正が起こった時に国交省に問い合わせ、初めて法令違反と認識したという。 今回の不正もエンジン制御ソフトウエアの書き換えなど比較的重大な案件もあったものの、多くは軽微なものだった。トヨタの違反のひとつは追突試験で日本の基準である1100kgではなくアメリカ基準の1800kgの台車をぶつけていたというもの。1800kgの持つ運動エネルギーは1100kgの2.67倍。それで大丈夫なのだから性能的に問題がないことは明らかである。 ならば数値を流用してもいいだろう――とならないのが型式指定の世界だ。ホンダは325万台と、今回の5社の中で最多の不正を出してしまったが、中身を見ると騒音測定を本来よりも大きな車重条件で測定し、それで試験にパスしたのだからより軽い負荷ならもっといいに決まっているのでOKと解釈してしまったという。物理的には何ら間違っていないのだが、法令に適合した条件でなければダメなのである。