厳島神社が耐震工事を始めている東回廊

　世界遺産・厳島神社（広島県廿日市市宮島町）が2024年度、社殿の耐震化に着手した。参拝者が歩く回廊の柱を補強し、大規模な地震による倒壊リスクに備える。人の出入りがある文化財の耐震性確保を求める文化庁の方針に沿い、国、広島県、市の補助を受けて27年度までに東回廊、その後、西回廊で進める。 【写真】東回廊の床下部分で実施した耐震補強を説明する原島さん 　同神社や文化庁によると、社殿は海上の礎石の上に柱を立てた構造で、海水などの影響で床下の柱の下部が劣化しやすい。現状は、床下の約1・5メートル分を新しい木材と取り換え、元の柱と連結する「根継ぎ」の工法で補修している。木材同士をかみ合わせて固定させる構造で、耐震性が比較的低いという。 　同神社は学識経験者や木造建築の専門家ら5人による委員会を2019年に設置し、できるだけ古材を傷めず、外観や文化的価値を損なわない工法を議論。柱の連結部分にステンレスの金具を取り付けて補強する工法を採用した。既に4、6月に一部で施工。9、11月にも工事を予定する。 　文化庁によると、1995年の阪神・淡路大震災では重要文化財の建造物116件、2011年の東日本大震災では143件が被災。耐震化は、人の安全性の確保に加え、倒壊から文化財を守る観点からも推進する。 　同神社では22年に終えた大鳥居の大規模修復工事でもステンレスの金具などを使って補強した。多数の参拝者が訪れる海上社殿は万が一のときに逃げ場がなくなるリスクもある。同神社工務所技師の原島誠さん（66）は「耐震化は人命に関わる。文化財の価値を損なわないようにしながら現在の技術を使って施工していきたい」としている。