ディズニーが「パークチケット」を値上げしても「ディズニー+」は値上げしない深いワケ
● 「パークは富裕層向け、アニメは庶民にも届ける」が ディズニーにとっての最適解 資本主義の世界で格差が生まれるのは、ディズニーのような一企業が抗うことができない経済の前提です。 しかしディズニーはそれを受け入れたうえで、すべての消費者セグメントに対して夢を届ける努力をします。どのような家庭でも、そこで育つ子どもが笑顔になれる商品やサービスを提供しようとするのです。 ですから、パークに来られない子どもたちには誰でも来ることができるショッピングモールにディズニーストアを用意します。パークの高額なキャラクターグッズを買えない家庭へも、ユニクロやウォルマートでディズニーキャラクターのアパレルを手に取れる価格で提供しようとします。 そうはっきりと口に出すことはないでしょうが、キャパシティという制約を考えたら、パークは富裕層中心にする以外に最適解はありません。 だとしたら企業姿勢としては、アニメーションなどのコンテンツビジネスに「世界中の子どもたちに届く庶民中心の商品」という役割を負わせることが社会学的な解だと言えるのではないでしょうか。
● ネットフリックスが値上げをしても ディズニー+が月額990円プランを残すワケ これはディズニーの商品構成でいえばテレビ放送と映画と動画配信を足し合わせた商品サービスということになります。 その観点で、世界中の子どもたちをマーケットの対象としてディズニーが最も力を入れているのが、ディズニー全体の売り上げの25%を占めるまでに成長した動画配信の『ディズニー+』だと考えられます。 ディズニー+はネットフリックスなど他の動画配信サービスと比較して、株式市場では苦戦が伝えられることが多いサービスです。 ところが面白いことにディズニーはパークと違って動画配信の価格を上げようとしません。日本ではネットフリックスがどんどん値上げをしている一方で、ディズニー+は相変わらず、最安プランは月額990円と手軽に視聴できる価格帯を残したままです。 *編集部注:2024年11月7日現在、ディズニープラスの料金プランは月額990円(税込)の「スタンダードプラン」と、月額1320円(税込)の「プレミアムプラン」がある。「プレミアムプラン」は2023年11月1日から導入が開始された。 990円というとそれでも「高い」と感じる人は当然いると思います。それでも、子育て中の家庭にとって「これをずっと見せておけば子どもがおとなしく楽しく過ごしてくれる」というサービスへの出費としては決して大きな負担ではありません。 子ども視点で考えれば、ディズニー+でディズニーのアニメ映画を見て育ち、スーパーで買ってもらったミッキーマウスのTシャツで友達と遊び、繁華街に連れていってもらったときにディズニーストアでおもちゃを買ってもらい…というように、夢のような楽しい体験ができます。幸せに夢を見る子ども時代を過ごすことができるのです。 仲の良い友だちがパークに行くのに自分が行けないというのはちょっと寂しいかもしれませんが、そのために世の中には遊園地という代替品が存在します。
● 東京ディズニーリゾートの 「真の顧客」は子どもではなく大人 そして東京ディズニーリゾートの本当の意味での顧客は大人です。 経済学的に見てディズニーについて本当に格差を感じるのはオトナになってからでしょう。 これはある意味で寂しさはありますが、少なくとも社会学的に見れば子どもの時代にはディズニーは広くすべての子どもにサービスを提供している。だからディズニーは企業責任を果たしていると評価すべきです。 フロリダのパークに関して言えば、もう多くの日本人はプレミアムパスを購入はできないでしょうけれども、それでもディズニーはわたしたち世界中の顧客に対して手を広げ続けているのです。
鈴木貴博