【マレーシア】MRT環状線、完成目標は32年へ モントキアラの駅誘致は幻に
マレーシアの首都クアラルンプールの周縁部を環状に結ぶ都市高速鉄道(MRT)3号線の最新路線計画案がこのほど公開された。開業予定は当初の2030年から2年延期され、32年となる見込み。日本人駐在員が多く住む北西部のモントキアラやスリハタマスにも初めて鉄道が通るとして期待を集めたが、最新計画ではモントキアラ駅がなくなり、両地区の中間地点に駅を設ける「折衷案」が提示されている。【降旗愛子】 MRT3号線(環状線)の事業主体である財務省系のMRTコープによると、3号線の全長は約51キロメートルで、計画中のものも含めて32駅が設置される。39キロが高架、12キロが地下部分となる。クアラルンプール市内の北西部から東部、南部にかけて人口密集地でありながら鉄道網から外れている地域を多くカバーする。1周にかかる時間は73分。利用者数は1時間当たり2万5,000人を見込む。 MRT3号線建設事業は、首都圏の公共交通機関の接続向上が目的。17年ごろに計画が浮上したが、マハティール政権(18~20年)が多大な財政負担を理由に計画を凍結した経緯がある。21年に計画が復活したものの、22年のアンワル・イブラヒム現政権への政権交代で再び遅延。昨年ようやく政府から土地収用手続きにゴーサインが出た。2年程度と見積もられている土地収用の進捗(しんちょく)にもよるが、26年に建設を開始する予定。完成は、当初発表されていた30年からさらに2年遅れて32年になる見込みだ。 23年時点では事業費は450億リンギ(約1兆5,000億円)以内とされ、MRTコープは民間と非政府系から調達するとしているが、具体的には明らかにされていない。 MRTコープは、3号線建設事業の本格始動に向けて今年12月2日まで首都圏35カ所で路線計画案を公開し、一般市民の意見を募る。 ■モントキアラ駅巡り異論噴出 22年に公開された路線案では、日本人駐在員が多く住む北西部のモントキアラとスリハタマスにそれぞれ駅が設置されていたが、このほど公開された最新計画ではスリハタマス駅のみとなっている。 MRTコープによると、スリハタマス駅は地下駅となり、両地区の中間地点にあたるシグネチャー・ホテル脇の浄水場付近に設置し、モントキアラ方面とは歩道橋で接続する計画。当初はモントキアラ駅を商業施設「163リテールパーク」付近に設置する予定だったが、周辺環境などを考慮して変更された。 車社会のマレーシアでは一般的に、富裕層は住環境の良い郊外にゲート(門)で囲われた広い家を構え、自家用車を中心に生活し、バスや鉄道などの公共交通機関は好まないとされる。そのため、高級住宅街とされるエリアに鉄道駅の設置構想が持ち上がると、近隣住民が反対運動を繰り広げるケースも多い。 こうした背景から、ソーシャルメディア上ではモントキアラ駅の誘致を巡り、さまざまな意見が交わされている。モントキアラも外国人駐在員など高所得層が多く暮らすため、鉄道駅は不要との声もみられる。また、高層住宅が林立するモントキアラでの土地収用の難しさへの指摘もある。一方で、現在最寄りとなっているMRT1号線(カジャン線)のスマンタン駅からモントキアラ方面に向かうMRTフィーダーバスはここ数年、利用者が急増。「富裕層は鉄道を必要としていないかもしれないが、富裕層の生活を支える小売店や飲食店の従業員には公共交通機関が必要だ」と、モントキアラ駅の計画中止に反発する声もみられた。 ■既存路線に新駅設置も MRT3号線に設置される32駅のうち10駅が他路線との乗り換え地点となり、建設中の軽量軌道交通(LRT)3号線(シャアラム線)を除く各線と接続する見込みだ。 計画案によると、MRT3号線の建設を機に既存路線でも新駅が設置されるようだ。ダマンサラのKGPAゴルフコースの脇に予定されているブキキアラスラタン駅には平行して走るMRT1号線の新駅が設置される。一方、北西部コンプレックス・ドゥタ駅には付近にマレー鉄道(KTM)の新駅が設けられ、乗り換えが可能になるようだ。