「マサラ上映」で再生した場末の映画館…挑戦たどる書籍出版
紙吹雪が舞う中で踊りながらインド映画を鑑賞する「マサラ上映」で有名になった兵庫県尼崎市の映画館「塚口サンサン劇場」の挑戦をまとめた書籍「まちの映画館 踊るマサラシネマ」が出版された。閉館の危機から、「映画館を身近なテーマパークに」をモットーに、再生するまでの十数年間の軌跡を記している。(高部真一) 【写真】「商店やかかりつけ医のような日常に必要な場所でいたい」と、著書を手にする戸村さん(兵庫県尼崎市で)
塚口サンサン劇場は1953年、阪急塚口駅前に「塚口劇場」としてオープン、改装して78年に現在の名称となった。1階と地下2階に4スクリーンの計484席で、シネマ・コンプレックスでもミニシアターでもない、昭和の面影が強く残る地元密着の映画館だ。 <沈没寸前だった場末の映画館> 著者で、劇場の映画営業部次長の戸村文彦さん(48)は、本の中で、2010年頃の状況をこう表現する。商圏内に三つのシネコンが次々にオープンし、客足が減り、社内では閉館を具体的に検討していたという。「このまま終わりたくない」と、戸村さんらの試行錯誤が始まった。
劇場の名物となったマサラ上映では、観客が立ち上がって踊り、クラッカーを鳴らし、紙吹雪をまく。22年10月からロングラン上映を続けるインド映画「RRR」では、計10回も実施し、全国からファンが集まった。 原点は、12年の怪談噺付きの映画「四谷怪談」の上映会だったと振り返る。古びた映画館を逆手にとった企画で、その後も「大人の文化祭」を目指し、作品を批評し合ったり、コスプレ鑑賞を促したりするイベント上映で注目が集まった。 周囲にある店舗が、一緒に面白がってくれた点も書き留めた。アニメ映画「ガールズ&パンツァー」上映の際には、近くの鮮魚店の協力で、舞台となった茨城県大洗町の名物あんこう鍋を販売。館内には、だしの香りが漂ったという。マサラ上映では、インド料理店がカレーを出張販売する。 戸村さんは、イベント上映の前、映画に合わせた衣装で注意点を説明し、体を張った「前説芸人」として名をはせる。「ボヘミアン・ラプソディ」では、フレディ・マーキュリーになりきり、タンクトップにサングラス姿で「エーーーオ」と叫び、観客を引き込んだ。 戸村さんは「大きな進歩より小さな変化。下を向かないで、できることをコツコツやり続けていけば、いいことが起きる」と話し、新たな企画を練っている。 西日本出版社刊。208ページ。1760円(税込み)。巻末には、5月に閉店した尼崎市の小林書店の店主、小林由美子さんとの対談を収録している。