9歳で「妹殺し」の汚名を着せられた「ジョンベネ事件」兄の凄絶半生 「ただただ、普通の子どものように育ちたかった」
「ただただ、普通の子どものように育ちたかった」
母親が息を引き取った2カ月後には、「ジョンベネを薬物漬けにして殺害した」と主張するアメリカ人男性がタイで逮捕されたこともあった。だが、 「結局、DNAの型が一致せず、ジョンベネ殺害事件については“嫌疑なし”に。彼はこの事件を研究するアメリカの大学教授に犯人を名乗るメールを送り続けていたのですが、全て妄想だったわけです」 10年の時を経て逮捕された“犯人”もシロ。となれば、再び始まるのが「では、誰がジョンベネを?」という散々繰り返された、おなじみの問答である。それは同時に、疑いの目が再び家族にも向けられることを意味していた。 依然としてくすぶっていたのは、兄が妹を手にかけ、両親が隠蔽(いんぺい)したという「兄犯行説」だ。 バークは事件から20年の節目となる16年に、心理学者が司会を務める人気トーク番組に出演している。「事件を風化させたくない」と初めてメディアの前で思いを語ったのだ。 「バークは05年にアメリカを代表する名門校の一つであるパデュー大学に入学。卒業後はソフトウェア・エンジニアとして働き、両親と違って、表舞台に出てくることはほとんどありませんでした。番組では『自分が犯人かのように報じられているのは悪夢のようだった』『ただただ、普通の子どものように育ちたかった』と切実な心情を吐露。自分たち家族への疑いに対しても『証拠を見れば、それが事実でないことは分かるはず』などと反論していました」
850億円を請求する訴訟
ところが、疑いを晴らしたいという兄の積年の願いは、いともたやすく裏切られることになった。 トーク番組が放送された直後、アメリカ三大ネットワークの一つであるCBSが「ジョンベネ殺しの犯人は兄のバーク・ラムジーだ」と示唆するドキュメンタリー番組を放送したのだ。事件後、ジョンベネの胃袋の中からパイナップルが見つかっていたが、「このパイナップルを巡るけんかがエスカレートした」というのが、番組の読み筋であった。 この放送に激怒したバークは、名誉毀損(きそん)だとしてCBSなどに合計7億5000万ドル(当時約850億円)を請求する訴訟を提起。 「19年に両者の間で和解が成立したと報じられました。和解金は明らかにされませんでしたが、おそらくバーク側に有利な条件だったのでしょう」