ダルビッシュ 開幕スタートの裏にあったリスクマネジメント術
開幕投手を回避したことに関しては、チームが大事を取ったに過ぎない、との見方もある。そもそも検査が大げさだと。確かに、そうなのかもしれないが、チームにしてみれば、当然のこと。去年終盤の腰のこともあるが、これまでもダルビッシュは、多少なりとも故障で戦列を離れてきたのだ。 メジャー1年目の8月には、右太ももの張りで、先発を回避。同じ年の9月にも、首の張りでしばらく登板を見合わせた。また、昨年もオールスター前に首の付け根から背中に広がる右僧帽筋の張りのために、故障者リスト入り。そして、昨年終盤は、腰の神経障害を煩い、それを隠しながらの登板だった。よって今回、無理すべきではないとの力は、強く上から働いたと考えて疑いはない。 もっともそれで、ダルビッシュは故障が多いと判断するのは短絡的で、彼は、長期離脱のリスクを回避したに過ぎない。これまでも、そしておそらくこれからも。それは、彼のケガに対するスタンスに透けている。ケガは、防げるのか? 防がなければいけないのか? あるいはある程度、起こることを想定していかなければならないのか。 そうダルビッシュに聞くと彼は、「ケガは、起こりうる」と話した。「どれだけ注意をしていても、筋肉の状態とか、靭帯とか腱とかっていうのは、コントロール出来ないので、自分のメカニックのちょっとしたズレも、瞬時に判断出来ることではない」さらにこう続けている。 「それ(ケガ)は仕方がない。起きた後に、どう対処するかということになる」 起きた後に悪化させないこと。そして、長引かせないこと。同時に、同じことが起こらないための予防を考える。ただ、それでもまたケガは起こりうると自覚し、受け入れる。ダルビッシュ流のリスクマネジメントだ。結局彼が、短期的には戦列を離れても、長期に渡ることがない背景には、そんなケガとの向き合い方があるのかもしれない。 いずれにしても、ダルビッシュが戻ってきた。今年は、サイ・ヤング賞候補筆頭に挙げられている。開幕前に行なわれた米「ESPN」の野球記者らによる投票では、42人中21人が、ダルビッシュが受賞すると予想したほど。シーズン初戦の登板は、それを十分に予感させるものだった。 (文責・丹羽政善/米国在住ライター)