Snow Man・目黒蓮『海のはじまり』とSixTONES・松村北斗『西園寺さん』が紡ぐ新しい家族の形
幼い命の人生との向き合い方
一方、『西園寺さんは家事をしない』で松村が演じる楠見俊直は、妻に先立たれ4歳になる一人娘・ルカ(倉田瑛茉)を、シングルファーザーとして必死に育てている。アメリカ帰りの天才エンジニアであり、クールで無愛想に見えるが、いつも仕事を定時に切り上げ、ルカのお迎えをして、家事・育児に奔走してあっという間に一日が過ぎてしまう。ルカへの愛情と責任感は強いが、ワンオペのシングルファーザーという立場に忙殺されている。職場での冷静ぶりと父親としての苦戦ぶりの対比が、松村の細かな感情表現により、こちらもリアルに伝わってくる。 楠見はルカと暮らしていた部屋が火事になり、職場の同僚である主人公・西園寺一妃(松本若菜)が所有する一軒家の賃貸スペースに入居することになる。西園寺は仕事は出来るが家事は一切しない、悠々自適の独身ライフを満喫していたが、楠見親子を迎え入れたことで生活が一変していく。 子どもらしく奔放なルカに振り回され、仕事・家事・育児で疲弊している楠見のプライベートな部分を、少しずつ分担しようとする西園寺。そんな中、ワンオペ育児の大変さを象徴していたのが、楠見が体調を崩し、父子家庭となって初めてルカを他人である西園寺に預け、一人で一晩休んだ時のことだ。楠見は申し訳ない気持ちもありながら、“解放された”と感じてしまった。ルカへの愛情は深く、何事にも全力で取り組んできた楠見ですら、一時でも一人の時間を過ごせたことを“解放”と呼んでしまうほど、ワンオペ育児の過酷さが表れている。 第2話終盤で、西園寺は楠見に、ルカと3人で“偽家族”になることを提案する。ルカの天真爛漫さに徐々に母性が芽生え、家事をしない主義だった西園寺が、楠見親子と疑似家族として暮らそうと提案したのだ。ここから先は、西園寺が血の繋がりの無い楠見親子と、家族のような協力関係を築いていきそうだ。 『海のはじまり』に話を戻すと、夏は楠見と真逆に、“解放”が徐々に狭められていく立場にある。一方的に姿を消した元恋人との別れから7年、夏は社会人となり、仕事が出来てしっかり者の年上の恋人・弥生と、実に解放的に何不自由無い暮らしをしていたのだ。元恋人が、あるいは楠見が、我が子を懸命に一人で育てていたのとは全く違う時間の流れだったはずだ。元恋人の母親から、海の父親をやる気はあるかと問い詰められているだけでなく、同じ時間は共有してこなかったが、夏に対し“いなくならないで”と願う海を目の前に、夏はこれまでの解放的な暮らしを手放す決意をすることになるのだろう。 海と対峙した夏、そしてルカと対峙した西園寺は、解放的で自由な暮らしを犠牲にしてでも、“血の繋がり”や“これまで共有してきた時間”に関わらない父性と母性によって、少しずつ新しい家族の形に近づいていくはずだ。夏と弥生、楠見と西園寺の関係も含め、人物描写を丁寧に描いている両作品だけに、それぞれがどのように幼い命の人生と向き合っていくのかに注目したい。
こじらぶ