小売店の新戦略で、デパートなど実店舗が復活
いったい誰が、「実店舗は死んだ」などと言ったのだろうか。実店舗の消滅を伝える報道は、かなり誇張されている。 米国では、2023年6月~2024年5月の1年間に実店舗を訪れた来客数が、ほぼすべての月で前年を上回ったことが、市場調査会社eMarketer(イーマーケター)のデータで示された。そして、小売業界はバーチャルではない店舗に再び力を入れている。実店舗は、ブランドのアイデンティティを支える柱、インスピレーションの源泉であるとともに、買い物客にとっては便利で、他ブランドに負けない価格で商品を購入できる場であるからだ。 実店舗の復活を大きく左右するのが、ハロー効果(目立った特徴が、全体の印象や評価に影響を与えること)である。実店舗は、他では見られない手法でブランドを意味づけし、地元コミュニティーとの信頼関係を築く。 その一例として、五輪開幕直前の仏パリで初の直営店をオープンしたビルケンシュトックを挙げよう。独特のサンダルで有名な独フットウェア・ブランドによるこの直営店は、販売目的だけではなく、「地域のイベントや活性化」のための「体験スペース」という役割をも備えている。ビルケンシュトックは欧州全域への拡大計画の一環として、こうした店舗を今後数年間で増やしていく方針だ。 現代の小売戦略の中心をなすのは、実店舗のコンセプトと買い物体験を見直そうという意気込みだ。たとえば、ファストファッション大手のH&Mは初の試みとして、米ニューヨークの新店舗に「プレラブド(Pre-Loved、中古品)」売り場を設け、古着販売を始めた。また、韓国・ソウルにオープンしたコンセプトストアでは、360度の没入型試着室をはじめ、さまざまなデジタルイノベーションが導入されている。 ■デパートが新しいかたちで復活 もちろん、現在に至る道のりがすべて順調だったわけではない。デパート(百貨店)はここしばらく、困難に直面してきた。しかしその多くは、価値提案(バリュー・プロポジション)を練り直し、デパートが今でも買い物客にとって魅力的な場であることを証明している。