『ブルーピリオド』いつだって夢見る未来には蒼い眩しさがある
出会ってしまった者たちの苦悩の果て
「ブルーピリオド」には、多くの人を奮起させるポジティブな名言がある。 「あなたが青く見えるなら りんごも うさぎの体も 青くていいんだよ」 「好きなことに 人生の一番大きな ウエイトを置くのって 普通のことじゃ ないでしょうか?」 「悔しいと 思うなら まだ戦えるね」 その一方で、「俺の 好きだけが 俺を守って くれるんじゃ ないのかなあ…!」と"好き"を続ける難しさも描かれている。これは"絵を描く"ことだけに限った話じゃない。他のことでも何ら変わりはない。 知識ゼロの状態から美大を目指す八虎に感化された友人が「やってみたいと思っちまった」と将来を語るシーンがある。 寝食を忘れるくらい夢中になれることを見つけてしまった。それは、本当に手放しに喜べることなのだろうか? それに出会ってしまった経験がある人は知っていると思うが、打ち込めば打ち込むほど、足りない自分の本性が明るみに出てきて、好きを肯定した後、否定された気分になる。そして孤独の中で己を見つめ、己は己でしかないことに気づく。やり続けないとわからないことがそこにある。 "情熱は、武器だ。"という言葉を鵜呑みにしてはいけない。その情熱を燃やし続けることがいかに大変か、燃えたぎった初期衝動から、もがき続ける姿を一気に魅せてくれるのが映画『ブルーピリオド』だ。 自分に正直に生きることは難しい。それでもその姿は眩しい。あなたが何歳でも胸が熱くなる、青臭かった自分を思い出させてくれる、そんな映画だと思う。これは、かつてのあなたの、そして今のあなたの物語だ。
文 / 小倉靖史