<第94回選抜高校野球>センバツ21世紀枠 候補校紹介/6 伊吹(近畿・滋賀) 熱心指導、地域に根を
「肩甲骨。いや(言葉では)難しいよね」。伊吹のエースで副主将を務める福井希空(のあ)=2年=は、説明をとっさに切り替えた。小学生の肩付近を触りながら「この辺りを広げることを意識しよう」と語りかけ、トレーニング方法を丁寧に教えた。2021年12月に同校で開いた野球教室。地元のスポーツ少年団から小学生約70人が参加し、部員たちは指導力を発揮した。 2日間かけて考案したメニュー。意識したのは、小学生が楽しめる環境作りだ。投手陣の指導では、タイヤを目がけて投球する「的あて」やスピードガンを使った球速測定を行った。アップでは鬼ごっこの一種である「ケイドロ」を導入し、ゲーム感覚や遊びを取り入れて飽きないように工夫した。自己紹介をする際には小学校時代にプレーしたチーム名を全員が発表。部員が地元出身のため、親しみを持ってもらうのが狙いだ。福井は「高校生になっても野球を続けてほしい」と語る。 積雪量で「世界一」の11・82メートルを記録したことがある伊吹山(標高1377メートル)のふもとに位置する。12月中旬から3月上旬は積雪があると、グラウンド練習では長靴を履き、サッカーやラグビーを行うこともある。室内練習場もないため、冬場は階段ダッシュなど体力作りがメインとなる。 冬場に雪が積もれば午前7時前に学校に集合。校舎付近の除雪作業だけではなく、近くの大原小学校の通学路まで範囲を広げ、小学生の登校時間に間に合うように雪を取り除く。試合ではベンチ入りの全選手がグラウンド内での全力疾走を徹底。校訓でもある「当たり前のことをあたりまえに」の実践を心掛ける。教育熱の高さから「地元に高校を」と誘致活動が広がって創立した経緯があるだけに、選手には地域に愛される野球部を目指すことが浸透している。 練習着の胸に記された「伊吹魂」は、書道部員が過去に書いた字をロゴにしたものだ。「魂を込めて野球をやろうという意味です」と野村勇雄監督(50)。書道部は「書の甲子園」で知られる「国際高校生選抜書展」の団体の部で21年、近畿地区優勝を果たし今春のセンバツでは出場校のプラカードの校名を揮毫(きごう)する。書道部と野球部の「ダブル甲子園出場」に向けて、熱は高い。【藤田健志、写真も】=つづく ……………………………………………………………………………………………………… ◇伊吹 1983年創立の県立校で体育コースなどがある。96年創部の野球部は甲子園出場がなく、2021年秋の県大会は準々決勝で近江にサヨナラ負けした。強豪のホッケー部は卒業生から東京オリンピック代表を輩出した。